第2話 模倣する街
『今日もいい天気』
『待ってー!』
『あの野郎またサボりやがって』
人間は殺されたんじゃなかったのか。情報が間違っていた?
ならゲートに居た機械達は、何故立ち入りを禁止したんだ。
……何にせよ、住人から話を聞けるのは大きい。情報の真偽が確かめられる。
そう思い、近くを通った女性に声をかけた。
「えっと、少しいいか?」
「……」
「この国で変わったことがあったら教えてほしいんだが」
「…………」
「おーい?」
何事も無かったかの様に女性が歩きだす。聞き方が悪かっただろうか。
荷物を運んでいる男性にも話かけたが、まるでこちらの存在に気付いてないかのように通り過ぎる。
(まさか)
通行人にわざとぶつかってみる。通行人はよろけたが、不思議そうな顔をして歩き出した。
会話しているカップルを遮る様に横切る。カップル達は何も無かったかのように会話を続けた。
ベンチで休憩してる人を叩いてみる。辺りを見渡すが、誰に叩かれたのかわかってない様だった。
「まじかよ……」
まさかとは思ったが、俺のことに気付いていない。それか、意図的に無視されているかのどちらか。
無視する理由は無いだろうし、認識されてないと見ていいだろう。
現地人からの情報が得られないのは少々辛い。この国の事を少しでも知っておきたかったのだが。
認識されていないのは不便だが、俺が何をしても住民達は気づかない。
好きに探索できるのは十分な利点になる。
そうと決まればまずは……そうだな
飯を探そう
***
非常食と水を見つけた頃には、すでに月が昇っていた
しかし、夜だと感じさせないぐらい街は明るい。まるで、眠る事を知らない街の様だ。
「一体、この国はなんなんだろうな」
広場のベンチに座り、非常食を食べながら呟く。
街の色々な所を覗いてみたが、手がかりになるようなものは何も無かった。
というより、人が生活してる気配が感じ取れなかった。
食料が無ければ水を使った形跡さえない。机や椅子などの家具は埃を被っていた。
水分も食べ物も必要無い。そして国の特徴を考えると結論は一つしか浮かばない。
「機械、なんだろうな」
「そうだよ。思ったより早かったね」
背後から声をかけられる。振り向くと白銀髪の少年が立っていた。
「君は俺の事が見えるのか?」
「うん。ロボットじゃないからね」
「ロボット?」
「君が機械って呼んでたやつだよ」
「あれ、ロボットって言うのか」
少年が隣に座る。街灯に照らされた少年は、ジーンズ柄のつなぎに頭にゴーグルをかけている。
厚手の手袋をしている所を見ると、彼も機械技師と呼ばれる人間なのだろうか。
「君、名前は?」
「僕はニコル。お兄さんは?」
「俺はオーリ。依頼でこの国に来たんだ」
「依頼?」
「この国で起こったことを調査しろってさ。
そうしたら機械……ロボットだっけ? に脅されたり無視されたり大変だったぜ」
「あはは、そりゃ災難だったね」
「で、一体何があった?」
ニコルはなにも言わず俯く。言えない事情でもあるのだろうか。
だが、折角会話できる人間に会えたのだ。無理やりにでも情報を聞き出したい。
「質問を変えよう。住民は生きているのか?」
「生きているというか死んでいるというか」
「ぱっとしない言い方だな」
「しょうがないだろ。僕だって整理がついてないんだ」
「どういうことだ?」
「……えっと、驚かないでよ」
ニコルが深呼吸をし、言葉を続ける。
「この国に生きていた人間は、みんな機械化してしまった。
人間性を捨てられない機械達が、人の生活を模倣する国になったんだ」
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