便利屋オーリが世界を救うまで
勾坂 幾人
第1話 機械の国
「機械の国?」
『ああ。人間が機械を作り、機械が人間の代わりに働く国らしい』
「そんな国があるなんてな。なんかあったのか?」
『機械が暴走しているらしい』
「暴走?」
『機械が人間を殺してる。何故かは知らないがね』
「機械が意思を持っているのか?」
『断定はできない。そういう研究がされていたという情報はあるが、依頼主は結末を知らないらしい』
「結末は分からずじまいか。それで、今回の依頼は?」
『機械の暴走の真相解明、及び、生存中の機械技師の救出』
「それぐらいならすぐ終わりそうだな。カノンにちょっと出かけるって伝えといてくれ」
『ああ。頼んだよ、便利屋さん』
***
「長かった……」
ジャックがかなり遠いとは言っていたが、まさか二日もかかるとは思わなかった。
しかも、所々馬車に乗せてもらっての二日。こんなことなら馬を借りてくれば良かったな。
「さて……どうするかな」
端的に状況を説明をすると、警備中の機械に囲まれてしまった。
数はざっと十機、それぞれの手には機関銃が握られている。
だが、撃たない所を見ると、誰これ殺す訳ではないらしい。
「国に入る気か?」
「勿論そのつもりだけど?」
「国に入る者。排除する」
「それは誰かの命令なのか?」
「ああ。そうだ」
「誰の?」
「答える道理は無い」
そりゃそうだ、と思いつつ打開策を探す。
数は圧倒的に不利。機械が武装してるという情報はなかった為、手軽な短剣しか持ってきていない。
……うん、打開策がどうのって話じゃないな。一旦引き返した方がいいだろう。
「引き返せ。そうしたら命までは取らない」
「そうするしかなさそうだ」
「わかったらもうこの国にはくるな」
「帰る前に一つ聞きたい。何故お前らは製造主であろう人間を殺したんだ?」
「……それを知ってどうする。知った所で──」
『ワーニング! ワーニング!』
言葉を遮るように、突然と一機の機械が叫び出した。
それにつられて他の機械達が騒然としだす。
『エラーコード。エラーコード。不正なアクセスを確認。脳部を再起動します』
「不正なアクセス……まずい、電波遮断装置を! 急げ!!」
最初の一機に続いて、計三機が項垂れる。
警告、不正なアクセスとも言っていた。外部からの妨害か?
動揺するこちらを他所に、項垂れた機械達が再び動きだす。
『……再起動完了。ミッションを開始』
そう言うと機械達は、隣の機械に銃口を向けた。
「銃を降ろせ。我々は敵じゃない」
「ミッション、絶対。使命、全う」
「やめろ。撃つな!」
「人間、殺す」
そんな懇願にも近い言葉は無視され、銃声が響いた。
その銃声を皮切りに、機械同士の撃ち合いが始まる。
何が起こっているか分からないが、機械達の意識がこちらから離れた。このチャンスを逃す訳にはいかない。
動かなくなった機械から機関銃を取り、周りの機械を撃ち続ける。
程なくして、機械達は動かなくなった。
「何だったんだ一体」
あれが、機械の暴走というやつなのだろうか。
何であれ、国に入れるようになったんだ。幸運だったと思っておこう。
国に入るためのゲートを通りつつ、得た情報をまとめる。
まず、機械は人間を無差別に殺してるわけではないらしい。
国外だからかもしれないが、あの機械達に俺を殺す気は無かったと思う。
それに、一機が暴走する直前に言っていた『人間、殺す』という言葉が引っかかっている。
あいつらの見た目は完全に機械だった。なのに暴走した機械はそれを人間と言った。
あいつらの言う人間とは一体何なのだろうか。
そして、こちらの質問に受け答えた所を見ると、人間と同等の知識を持ってるのだろう。
その知識はどうやって得たのだろうか。そして、何をしようとしているのか。
機械達に命令する存在が居ること。また、それを妨害する何者かの影。
まずは妨害してる者を探っていくのが良さそうだ。途中で機械への対応策も見つかるだろう。
方向性も決まった所で出口が見えてくる。
しかし、そこから見えた光景に、思わず驚愕してしまうのだった。
「どういう、ことだ……」
ジャックの話では、人間はほとんど殺されてると言っていた。
機械達も、暴走状態なら人間を殺してもおかしくないと思っていた。
なのに、何故──
──人間が生活しているんだ。
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