ゆっくりと鎖は巻かれる⑤
突如として発生した学校一の美少女とのデート。
時間は僕の心の準備を待ってはくれない。
ああ、神よ……僕に勇気をください。
待ち合わせ場所にいた彼女は、とても大人びた格好をしていた。
春らしい桜色のカーディガンに白いワンピース。まさに清楚の塊だ。
「よく似合ってるよ」なんて心に思っていても喉から外に出てこない。
何か気の利いた言葉をと思ってはいたが、そもそも僕は女性と話すのが苦手なのだった。
緊張した僕とは正反対で、近所の猫の話を楽しそうに話してくる。
そんな彼女を遮るように「今日はどこに行くの?」と今回の目的について質問した。
「いっぱい行きたいところはあるんだけど。まずは……」
と、考え始めた彼女は、すぐさま僕のほうを向き目的地を告げてきた。
「楽しいところに行きます!」
――――彼女についていった場所は、アミューズメント施設だった。
ここ二か月前にオープンしたばかりのゲームセンターと様々なスポーツが楽しめる造りの、今学生や家族連れに人気の施設である。
「私、一度来てみたかったの!」とすごく上機嫌だ。だがしかし……僕はスポーツが苦手だ。
運動なんて学校の体育以外は、朝のランニングだけである。
この施設の目玉は、球技。いくら持久力をつけているからと言って補えるわけがない。
彼女に手綱を引かれるまま到着したのは、バスケットコートだった。
一対一でゲームをするのだが、僕はドリブルすら満足にできない。
さすがの彼女はボール捌きがとても上手かった。
見かねた彼女は僕に教えてくれたりもしたが、ゲームに入る前に交代の笛が鳴ってしまった。
続いて向かった競技はなんと、スカッシュだった。
打ったボールを相手のほうの壁にうまく打ち返さなければならないスポーツだが、もちろん未経験だ。
「こ、こんなのやったことないよ?」
不安が口から漏れ出してしまった。
「大丈夫!私も初めて!」
今日初めて触ると言っていたラケットを素振りしながらそう言った彼女のフォームは、初心者のそれとは別物だった。
これが校内一の完璧超人か……と、その片鱗を見せられた僕は、妙に納得してしまった。
結果はもちろん彼女の圧勝。最終ゲームで僕の体力が底をつき、程なくして制限時間の終了の笛が鳴った。
「あーっ楽しかったー!普段じゃこんなにスポーツできないもんね!」
へとへとになる僕の横で盛大に伸びをしながら楽しさに浸る彼女がいた。
「疲れた……。もう体力がありません……」
「男の子でしょ?情けないぞー。」
そりゃ二時間休みなくハードなスポーツばかりをやったんだから疲れるのは当たり前だ。
「でも……楽しかったでしょ?」
彼女のほうを見つめた――――
楽しい。その気持ちになったのは、久しぶりかもしれない。頭の中に何も入れずただスポーツを目いっぱいした。そんなこと今までなかったしそれに、なんだか彼女といるととても気が楽になっていた。
「そうだね。またすぐ来ようとは思わないけど、久々に楽しかったよ。ありがとう。」
彼女にも慣れてきたのか、スッと感謝を言えるようになっていた。
「え?あ……うん。それはよかった!また来ようね!」
彼女のカーッと耳が赤くなっていくがちらっと見えたが、「暑いね!飲み物買ってくる!」と、そそくさとどこかへ走り去ってしまった。
施設を出た後は、近くのラーメン屋に行くことになった。
「一度来たかったの!」と、目をキラキラと輝かせて、お店おすすめの豚骨ラーメンを注文した。
動いた後で、おなかが減っていたため、僕も彼女もペロッと平らげた。初めてのラーメンに彼女も大満足したご様子だ。
ラーメン屋を出た後は、すぐ近くの商店街にある喫茶店に連れていかれた。
店の前に書かれた看板には『期間限定!!ふんわりデザート祭り!!』と書かれていた。
まさかね……さすがにそれはないよ……な?
お店に入ると向かい合うようにして二人席に座り、メニュー表に目を通した。
メニューは特に普通の喫茶店と遜色ない。
「僕はコーヒーにするよ。鳴海さんは?」
彼女はメニューを食い入るように凝視していた。
「わ、私はこれにする……」
興奮気味な息づかいでメニューの最も目立っている箇所に指差した。
『期間限定!!ふんわりデザート祭り!!今週の限定商品 ふんわり生クリームのフルーツパフェ』
聞いたことがある……女の子のデザートは別腹説……
確か、幾らおなか一杯でもデザートは、胃袋に入らず異次元空間に行く為食べられるのだとか。
いくら清楚なお嬢様といってもやはり彼女も女の子だ。他の子と何ら変わりはない。
そうこう考えているうちに、彼女の目の前にパフェが到着した。
彼女の小さい顔を隠してしまうほどの器の中に溢れんばかりのイチゴやブルーベリーなどのフルーツに、それを覆いつくす真っ白な生クリームが盛られていた。
さすがにこれは……
幾ら女の子でもこの量は食べきれないだろう……
「な、鳴海さん……これは」
覗き込むように彼女の表情を伺う。「有馬君。私……」
さすがに彼女でも食べきれないのか。まあ無理もないが……僕に頼られても戦力になる気がしない。
「どうしたの?もしかして食べきれない?」
その問いの彼女の答えに僕は呆気にとられてしまった。
「私、今ものすごく幸せです。すっごく美味しそう!」
!?
「よ、よかったね……食べきれるの?これ」
「余裕です!」
一段と目を輝かせている彼女は我慢の限界のようだ。
「そ、そっか。どうぞどうぞお食べください。」
その言葉を待ってましたと言わんばかりに勢いよくスプーンを掴んだ。
「いただきまーす!!」
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