Take2

夏祭り(原作:流々(るる)) take2

 妻の地元は、夏祭りが活気にあふれる。

 妻によると、夏祭りが近づくと、男どもは仕事が手につかなくなるらしい。特に、高齢の方は、それが顕著なのだとか。

 神輿が練り歩き、盆踊りがあり、それは賑わうそうだ。


 自分自身の転勤があり、妻の地元のアパートに引っ越した。

 そこからでも通勤できる範囲だったのと、実家が近い方が妻も楽だろうと思ったのだ。今後、子育てを考えるなら、なおさら。

 夏祭りが近づくと、まだ一月以上あるにもかかわらず、妻が何かと祭りの話をするようになった。妻もやはり楽しみなのだろう。


「俺の地元は、神輿が出るような祭りなんて無かったな」

 妻の話を聞き、そう言ったことがきっかけだった。

「なら、むつみに入れてもらえば? 多分、若い人大歓迎だよ。それに、こういう田舎では、上手くかわいがってもらっておくのも必要だし」

 妻の押しもあり、睦に参加することにした。神輿を担ぐのにも、興味があったし。



 睦では、割とかわいがってもらえていたと思う。

 特に全一まさかずさんは、何かと俺に気を遣ってくれた。俺が入るまで、一番の若手だったこともあるのだろう。

 蔵出しの日も、金曜の朝五時に集合とのことで、わざわざ平日だけど大丈夫かと気遣ってくれた。

 確かに朝は早いが、その分、会社に間に合う時間までなら、参加できた。これが、九時からだったら、逆に無理だった。


 蔵出しの日に、さあ神輿を出すぞという時になって、加藤さんという、口を出すのが仕事のおじいさんから、

「先にウマを持って行ってくれ」

 と指示をされた。

 が、何を求められているのか全くわからなかった。

 困っていると、全一さんが助け船を出してくれた。

「ウマってのは、神輿を置く台のことさ」

 ちょっと、その後の説明が長かったけれど。


 俺が参加できる時間で、作業を終えることができた。

「いやぁ、今回は慎二しんじくんがいたから早く終わったな。ありがとう」

 そう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。

 余所よそ者の俺も、上手く受け入れてもらえているようだ。



 神輿巡行の当日、神酒所みきしょに集まり、揃いの法被はっぴをもらった。

 もらったはいいものを、帯をどうやって結べばいいのか四苦八苦していた。そういう時、全一さんはやっぱり気付いてくれる。

「どれ、貸してみな。締めてやるから」

 そう言って、手際よく、きゅっと締めてくれる。

「おぉっ、格好いいっすね! ありがとうございますっ!」

 ちょっと練習してみようかと思う。


 神輿巡行になったが、俺の仕事は神輿担ぎではなく、神輿を担ぐ同好会の人の調整や交通整理だ。

 睦の人たちの年齢を考えれば、それも仕方が無いように思う。

 まあ、それならそれで、営業で磨いた技を見せてやろうじゃないの。


 終盤には、担ぎ手にも疲れがみえ、睦のメンバーで交代した。俺が神輿を担ぎたがっていたのを、みんなが覚えてくれていて、一番にまわしてくれた。これはもう、お礼をするしかない。

 打ち合わせの時に、加藤さんがかけ声は「わっしょい」だと、言っていたのを思い出し、同好会の「セイヤーッ」の中、

「わっしょいっ!」

 と声を上げた。

 ちょっと、悪目立ちしすぎたかな。



 無事に神輿巡行も終わった。そうなれば、睦の人たちと鉢洗いだ。

「慎二くん、よかったよ、あのかけ声。やっぱり神輿はわっしょいだよな」

 わざわざ、加藤さんから酒を片手に話しに来てくれた。加藤さんに届いていたんなら、よかった。

 他にも、身長が高いから担ぐのが大変だっただろうとか、色々な人から声を掛けてもらった。


 ほろ酔いで帰宅すれば、妻が出迎えてくれる。

「見てたよ、お神輿担いでるところ。格好良かったよ」

「惚れ直した?」

「うんうん、惚れ直した」

 ずっと着たままだった法被を、妻が脱がせようとして、帯に手をかけ、そして、手を止めた。


「ねえ、もしかしてこの帯ってお父さん?」

「そう、お義父とうさんに結んでもらった」



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原文:https://kakuyomu.jp/works/1177354054885332628/episodes/1177354054885332629



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慎二くん目線もいいかなと。

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