ハレンチ学園演劇部オーディション(原作:青瓢箪)

 えっと、ごめんなさいね。私、あなたに夢のことをお話ししたことってあったかしら?

 そうよね、ないわよね。

 なら、あなたはどうやって私の夢を知ったのかしら?

 そう、あなたが勝手にそうだろうと想像しただけなのよ。


 世間一般に見て、成功していれば夢が叶ったの? それは違うわよね。

 夢でなかったことで成功する、それが夢だった人からすれば、ふざけるな、でしょうね。でもね、夢じゃなかった物を夢だって言われても、勝手に決めつけないでちょうだい、って話なのよ。


 私の夢は、そうね、ある意味では叶ったし、ある意味では叶わなかった。

 私はね、女優になりたかったの。女優を目指す人が憧れるような、女優にね。

 それにしては、ずいぶんと違う所にいるでしょ、今の私。

 だからね、夢は叶っていないのよ。


 転機? そうね、高一の時かしら。

 ずいぶん早いって、思った? 私はこれでも、表現力を身につけるために、小学生の頃からバレエを習っていたし、世界をって思っていたから、英会話も習ってた。

 中学の時も演劇部に所属していたし、ちゃんと努力していたのよ。

 バレエと英会話は、今もきちんと役に立ってるわ。


 女優を目指していた私は、高校もその視点で決めたの。

 ちょっと勉強を頑張らなければいけなかったけれど、全国高校演劇大会で一年の時の脚本で創作脚本賞をとった生徒がいたの。

 演出家としても、天才だと評判だったわ。

 その人の演出で、演技がしたくてね。


 その人があまりに有名で、その年は演劇部への入部希望者が非常に多くて、急遽、入部オーディションが行われることになったの。

 もちろん、私は合格する自信があった。

 オーディションは一人ずつ、審査員は三年生。部長と副部長、演出担当としてあの人、あと二人いたかしら。


 オーディションの内容はね、寸劇。

 その場でお題をもらって、ほんの少し考える時間を与えられて、お題を表現する。

 全部で三つあったわね。


 一つ目のお題で、私はすごく驚いた。何だったと思う?

『ミレー作 チン毛拾い』よ。落ち穂拾いじゃなくってね。

 何が何だかわからなくて、一瞬頭の中は真っ白。

 審査員の三年生は平然としていた。

 良く覚えてるでしょ。それだけ衝撃だったのよ。


 必死に考えた。わざわざ『ミレー作』ってことは、絶対に落ち穂拾いをもじっている意思表示だとか。

 だとしたら、拾う物は目をこらして、一つも残さず、大切に拾うもの。

 普通なら、汚らしいってなるところだけれど、私はあえて、大切そうに拾い上げる演技をした。


 二つ目はね、『パコ太郎作 ペンおっぱい恥部アップペン』だったかしら。ご丁寧に『PPAP』と振り仮名を振ってあったのだけれど、長い方は、たぶんそんな感じ。

 今の人には、わからないわよね。

 当時、流行ってたのよ『PPAP』って曲。曲でいいのよね、あれ。

 でもね、私は本この間まで受験生、流行のエンターテイメントなんて、そういうのがある、くらいにしかわかっていなかった。


 どうしたかって?

 どうしようもないわよ。仕方が無いから、それっぽく、即興で体を動かすしかなかった。

 自分がどんな動きをしたか、覚えていないのよ。

 覚えているのはね、すごく恥ずかしかったということだけ。


 そんな思いをして、すぐに三つ目のお題。

『太郎くん と 花子さんの 手による生殖行動』。もうね、ワケが分からない。

 セクハラよね、これ。

 私にわかったのは、手だけで表現しなければならないということだけ。

 想像力をフル稼働して、どうにかやりきったわ。


 もちろん、オーディションは合格。

 この試験のおかげで、私はお目当ての先輩に目をかけてもらえた。

 三年生は受験があるから、一緒に部活動できたのは、ほんの半年ほど。

 でも、私にしかできない役があると言われて、嬉しくて、夢中で演じたの。

 女優への道に繋がっていると信じて。


 だけど、その結果がこれ。

 私は、女優じゃなくて、コメディアン。


 あら、そろそろ行かなくちゃ。

 えっ? 叶った夢?

 私の夫、希代の演出家、世界の鈴木がその先輩よ。

 私は、彼の演出で演じるの。


 今度こそ本当に、行かなくちゃ。

 私の大舞台、記憶に焼き付けてちょうだいね、お若い記者さん。



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原文:

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885027194/episodes/1177354054885027198

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