セピア色の夕焼け

「雨、やっぱり嫌いだな」

と深雪は呟く。僕は本を内容を追いながらコクコクと頷いた。

「部活なんで早く終わったの?」

「部長が階段ダッシュに飽きたから」

「何それ!」

図書室は昼休みによく行くけど、時間がないのでどうしてもゆっくり本が読めない。

今日は良い日だ。明日は休みだし。

「本、面白い?」

「うん、まぁ、どうだろう」

まだまだ序盤。登場人物に愛着が持てていないので没入感がなく、ちょっとしんどいところ。

図書室はがらんとしていて静かだ。雨の音が心地よいと思える。

深雪は黙って空を見ている。雨が嫌いになってしまった深雪の顔に笑顔はない。

やばい、全然集中できないな。

「あのさ」

「うん?」

「セピア色って言葉いいよね」

「この黄ばんだ紙の色のことだよね。僕も好きだな、もの悲しい感じが」

「そう、儚い色なんだよ、でも黄色い色なんだよね、暖色ってやつ」

「暖色かぁ」

窓から見える色は確かに冷たくて悲しい感じがするけど、セピア色は

どうして暖かいのに悲しくなるんだろう。

「夕焼けもそうだよね、儚い感じ」

「確かに。なんだろう、あれかなぁ。『時が過ぎ去るのが悲しい』みたいな」

深雪は少し固まるとうんうんと頷く。

「そうそれだよ!どっちも時の流れって感じがする!」

うまいこと言えたのかな。わかんないけど。

僕は本を戻しに席を立つ。借りようにも、司書の人がいない。探しに行くのもめんどくさいし、また明日……

明日休みだ。

「あのさ、明日暇?」

なんだか胸がどきっとした。

「暇……かな。明日女子が練習試合でコート使えないから」

「えっと、映画行かへん?」

なんで関西弁

「ええよ、何観んの」

深雪は聞いたこともない題名を口にした。

「第二次世界大戦が舞台のやつ」

「そういうのが好きなの?」

「わたし、歴史好きだから」

「まあ、なんだかそんな感じはするけど」

「それで、あの近くにある公園に、8時集合で」

「了解」

深雪は長い溜息をつく。

「明日、晴れたらいいけど」

「くもりじゃなかったっけ」

「晴れがいいなぁ」

深雪は上履きを少し脱いでいる。

「流石にここはまずいと思うけど」

「軽く投げるだけだよ」

上履きをポイと投げる。上履きは転がることもなくドスンと落ちる。

「明日、晴れだって」


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