第15話

「クルル!」

「やっぱり無事だったんだね!」

 抱き付こうとするミルをひらりと躱してから、クルルは「まぁな」と呟いた。

「囲まれた上に、よってたかって武器を振り下ろされて、蓋をされたみたいになったんだがな。一人、踏ん張り過ぎて股を開き過ぎている奴がいたから、潜って脱出した」

 真顔で告げられたその脱出方法に、ミルがぶはっと噴き出した。噴き出し方がアイドルらしくないんだが、良いのかそれで。それとも、見え方を意識する事ができないほどおかしくて、且つ不意打ちだったのか。……後者だろうな、多分。

「……あ、そうだ。クルルが戻ってきたんなら、デッキの扉閉めねぇと……」

「勿論、閉めてきている」

 クルルが頷きながら言って、俺とミルはホッと安堵の息を吐いた。デッキの扉が閉められたのなら、もうこれ以上掃除屋がこの船に入ってくる事は無い。

「あとは船に新しくバリアを張り直して、ひたすら籠城船だな。……ピューレ、船にバリアを張ってくれ」

 クルルが胸に装着していた通信機らしき物に向かって言ったけど、返事は無い。それは、そうだ。だって……。

「ここでも駄目か。さっきから、操舵室と通信が繋がらなくてな……壊れたか?」

 顔を顰めたクルルに、俺は首を横に振った。

「壊れたんじゃなくて、通信機の電源を切ってあるから……。掃除屋に侵入された時に……見付からないように……少しでも音を立てたりしないように、って……念のために……そのままで……」

 この先を、言いたくない。けど、言わないわけにはいかない。俺は、忘れていた恐怖が蘇ってくるのを、泣きそうになるのを堪えながら、蚊の鳴くような声で言葉を継いだ。

「あと……通信できたとしても、ピューレから返事が来る事は絶対に無い……。だって……ピューレ、掃除屋に……」

 嗚咽になって、その先は言えなかった。だけど、何を言いたいのか察したらしい。クルルは顔を顰めて、ミルの顔を見た。俺も、つられてミルの方へと顔を向ける。

 だけど、何故かミルの顔はそれほど暗くない。そう言えば、ミルはさっき操舵室で、ピューレの遺骸にはお構いなしだった。ピューレが潰された瞬間を見たかどうかはわからないが、あれだけ派手に飛び散った蛍光黄緑の飛沫。全く気付かないわけはないだろう。そうでなくても、ピューレがいない事に疑問を抱く様子すら見せないのは不自然だ。

 更におかしな事に。ミルの顔が暗くない事を確認した辺りから、クルルの顔の険しさが半減した。

「……ショウ、一つ確認したい。……ピューレは、どうやってやられた?」

「どうって……」

 何でわざわざ、そんな事を訊くんだ。掃除屋ともう一戦交えて、同じ方法で倒してやる、とでも考えているのか? ……いや、クルルの性格でそれは考えにくいか。

 わけがわからないながらも、俺はその時の様子を訥々と話した。槌のような武器で、ピューレが叩き潰された事。その飛沫が、操舵室中に散った事。

 聴き終ると、クルルは「ふむ……」と唸る。そして、操舵室の方角へ足を向けると、歩き出しながら言った。

「とにかく、まずは操舵室へ行くぞ。話はそれからだ」

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