銀河混沌冒険団

第12話

　モニターを見て、俺は唖然とした。

　でかい。相手の船がでかい。でか過ぎる。地球へのワープ前に戦った敵の船の倍以上はある。下手したら三倍はある。

「あれも……宇宙海賊……？」

「いえ、あれは……似てますが、違います。言うなれば、掃除屋です……！」

「掃除屋……？」

　また一言だけで大体イメージを掴める単語が出てきた。けど、宇宙海賊と比べるとやや説明が不足している気がする。

「宇宙海賊は、略奪を目的としています。人を傷付けるのは、そのついでのようなもの。掃除屋は逆です。人を傷付け、殲滅させる事に楽しみを抱く種族達で構成された集団。ついでに貴重品を奪います」

　単語から伝わってきたイメージよりも、もうワンランク物騒だった。俺の知ってる世界観で言うなら、愉快犯の集団といったところだろうか。

「……ってかさ。船の外装見ただけで、宇宙海賊じゃなくて掃除屋だってわかったって事は……」

「えぇ。あの船は、掃除屋の船としてマークされ、要注意船として宇宙を旅する全ての船に画像が出回っています。ただ、あまりに強過ぎるため、注意したところで結局乗組員全員が殺されてしまうケースがほとんどなのですが……」

　さっきから、ピューレが俺に与える情報がどれもこれも絶望的過ぎる。

　俺が青褪めている間に、モニターに映るカタパルトデッキには前のようにクルルとミルが姿を現している。クルルはアックスを取り出して肩に担ぎ、ミルは前のように気を持たせずさっさと変身して銃を構えた。

　相手の船から降りてきた、どこか狼を彷彿とさせるクリーチャーとでも言うべき連中が、クルルとミルに迫る。それに対してクルルはアックスを振り構え、ミルはいきなり光線を発射して迎え撃った。

　ミルの射撃は、敵を一人倒すにとどまらない。ミルを中心として、円を描くように居並んだ敵を次々と焼き払っていく。そして、討ち漏らした敵を、クルルがアックスで薙ぎ倒す。そして、クルルの背後に迫る敵がいれば、それをミルが正確な射撃で排除する。ミルに肉迫する敵がいれば、間に滑り込んだクルルがアックスで殴り倒した。

　息の合った連係プレーに、俺は感嘆のため息を禁じ得ない。

「二人ともあれだけ強いんだし、大丈夫じゃねぇの？　宇宙海賊の時みたいに、サクッと片が付くんじゃ……」

「……だと、良いのですが……」

　ピューレが言葉を濁すものだから、俺は増々不安になる。

　そんな俺の不安なんぞ知る由もなく、クルルとミルは宇宙空間で縦横無尽に暴れまくっている。

　クルルはアックスを振り回して、時には居並ぶ敵を一気に薙ぎ倒し、時には刃と柄がクロスしている部分で敵の足を引っ掛けて転ばせ、時には頭上からアックスを振り下ろして唐竹割にする。

　ミルは、デッキを思い切り蹴って跳ぶ。上方からの容赦ない乱れ撃ちで、敵の目から見ればそれはレーザー光線のゲリラ豪雨といったところだろう。

　戦いは、どう見てもクルル達の方が優勢だ。なのに、何故だろう。どうしても不安な気持ちが消え去らない。さっき、ピューレが不安になるような事を言ったからだろうか。

　しかし、その不安は正しい予感だったのだと、しばらくしてから俺は思い知る事になる。

　最初に様子がおかしくなったのは、クルルだ。アックスを振るうキレが次第に悪くなってきて、動きも遅くなっている。

　クルルの動きが鈍くなってきたからか、ミルにかすり傷が増えてきた。クルルが守りに入るのが遅れているからだ。

　気付けば、二人とも傷が増え、互いを援護する事もできず、敵に囲まれて分断されてしまっている。

　戦略ゲームで遊んだ事は無いし、軍略とかが出てくる漫画や小説を読んだ事も無いけど、それでもわかる。この状況は、どう見ても良くない。

「何でこんな事に……？」

「一番の理由は、戦闘に動員できる人数の差です。クルルとミルがどれだけ強くても、生命体である以上疲労は溜まります。宇宙海賊の時は疲労が溜まる前に勝負を決する事ができる数でしたが、今回の掃除屋は数が多過ぎます。それで、クルルの疲労値が限界に達して、力が半減してしまいました。ミルも、今でこそ戦えていますが……遅かれ早かれ、体力は尽きます。彼の場合は、銃のエネルギー切れという懸念もありますし」

　掃除屋は、あまりにも数が多過ぎる。

　奴らを倒せるとしたら、それは船ごと一気に焼き払うレーザー砲を備えた戦艦で戦う事。それしかないでしょう、とピューレは静かに呟いた。

　それはつまり、目を付けられた時点でほとんどの船は死んだも同然、という事じゃないか。ピューレが言っていた、〝注意したところで結局乗組員全員が殺されてしまうケースがほとんど〟というのは、こういう事なのか……。

　クルルが遂に膝を付き、敵に取り囲まれて姿が見えなくなった。敵に殴り飛ばされたミルが、カタパルトデッキの壁面に激突してのけ反る様子がモニターに映る。

「クルル！　ミル！」

『う、るさい……』

　思わず叫んだ声に、数秒と開けずに声が返ってきて、俺は少しだけホッとした。まだ、生きてる。だけど、状況は相変わらず劣勢で、スピーカーから聞こえてくるクルルの声も苦しげだ。

『俺の心配は、要らない。だから……ピーピー騒いでないで、自分の身の安全だけ、考えてろ、よ……旧人類』

「何でこんな時に、俺を煽るような事言うんだよ！　こんな状況で騒がずにいられるかよ！　心配するな？　心配するに決まってんだろ！　クルル達がいなくなったら、俺、今度こそ一人ぼっちになっちまうもん！　心配するよ！　俺の事も、クルル達の事も！」

　感情を抑えきれなくなって、思いのたけを一気に吐露する。すると、スピーカーから『ククッ』と笑いを堪えるような声が聞こえてきた。

『それ、さっき談話室で言えば良かったんじゃないのか？　随分色々と面倒な事を考えていて悩んでいたようだが、もう出てるだろ、答え』

「うるせぇよ！　良いから心配ぐらいさせろよ！　でもって、無事にこっち戻って来いよ！　クルルだけじゃねぇぞ、ミルもだ！」

　そう怒鳴ったけど、ミルの返事は無い。

　不安が更に増した時、また船内にけたたましいサイレンが鳴り響いた。今までのサイレンとは、音が少し違う。

「この音は……？」

　恐る恐る問うと、ピューレは震えたのだろう。体が、ぶるんと揺れた。

「この音は……船に何者かの侵入を許してしまった時の音、です……」