第11話

「それで……これからどうするの?」

 一旦船内に戻って、宇宙に出て。談話室でホットミルクを皆で飲んだ。少しだけ落ち着いたところで、ミルが問い掛けてきた。

 どうする……俺はこれからどうする?

 この誰もいなくなってしまった地球で、一人自給自足の生活をするか。ミル達の、新天地を求める冒険についていくか。

 普通に考えたら、後者しか有り得ない。記憶の上では二日か三日前まで、農業経験なんて微塵も無い高校生だったんだ。勿論、猟も漁もした事は無い。そんな奴が自給自足なんてできるとは思えない。

 それに……ずっと家族や友人に囲まれて生きてきて、目覚めてからの二日間はミル達と一緒に過ごしてきて。それなりに賑やかに過してきた。それが、いきなり一人ぼっちになって、これから五十年はあるだろう人生を送るなんて寂し過ぎる。絶対に嫌だ。

 だけど、ミル達と一緒に行ったとして、俺に何ができる?

 俺には、ミルみたいな変身能力も、銃を自在に操るスキルも無い。運動能力も人並みで、クルルのように接近戦ができるとは思えない。

 家事雑用は、この船では全部機械がやってくれる。そのメンテナンスはクルルとピューレが請け負っていて、そしてこなすにはきっと機械工学とかなんかそんな感じの知識が必要で。でもって、俺にそれは無い。操縦も同様だ。バリアの張り方と緊急脱出ポッドの使い方は教えてもらったけど、それだけだし、これ以上覚えられる気もしない。

 役立たずだ。

 俺は、この船では世話を焼かれるばかりで、何の役にも立てない。

 黙り込んだ俺のカップに、ピューレが無言のままお茶を注いでくれた。何とか礼を言って、それを飲み干す。少し残っていたホットミルクがお茶と混ざり合って、柔らかい味のミルクティーになっていた。

 ミルクティーを飲み干しても、考えはまとまらない。ぐるぐると悩み続ける俺を見て、ミルが「うーん……」と唸った。

「そんなに深く考えなくても良いと思うけどなぁ。ボク達と一緒に来たければ来る、故郷の地球で暮らしたければ残る、で良いんじゃない?」

 口に出していないのに、俺の悩みを読み取ったのだろうか。悩んでいた内容をずばりと当てられて、俺はドキリとした。

 ドキリとしたのを読み取られたのか、今度はクルルがヒソヒソ声で話し掛けてくる。

「ミルは、空気は読まないが心は読むぞ。怖い程にな」

「聞こえてるよ、クルル」

 にっこり笑いながら発されたミルの言葉に、クルルの表情が凍り付くのが見えた。それが何だか、無性におかしくて。やっぱり、この船で一緒に行きたいな、と思う。

 けど、やっぱり一緒には行けない。俺は、何もできないから。三人とも今は明るく接してくれてるけど、時間が経ったら、何もできない俺の事が煩わしくなるかもしれない。もしそうなったら……俺はきっと、地球に残らなかった事を後悔する。

「ショウって、見た目によらず結構面倒な性格してるんだねぇ」

 ほっとけ。あと、心を読むな。それでもって、空気は読め。

 とにかく、この船で一緒に行く事はできない。できるかどうかはわからないけど、俺は地球に残って、一人で暮らしていく。

 そう、三人に伝えようと口を開きかけた、その時だ。けたたましいサイレンが、船内に鳴り響き始めた。赤いランプがテカテカと光っている。

「敵か!」

 クルルが勢いよく立ち上がって、早くも談話室を出ていこうとしている。ミルも同様だ。

「ショウ、私を操舵室へ。お願いします」

 ピューレに向かって、俺は頷く。

 今は、船を出て地球で暮らすなんて言い出せる雰囲気じゃない。戦いが終わったら、ちゃんと皆に言おう。

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