第10話

 何も無かった。本当に、何もかも、無くなっていた。

 地面はひび割れていて、草も何も生えていない。遠くに見える山の頂上にだけはうっすら緑が見えるから、あそこだけ植物が生き残ったのかもしれない。

 建物は辛うじて形を残している物もあるけど、どれもボロボロで、一時的な雨宿りはできても、住む事なんてできそうもない。

 その辛うじて残ってる建物の形も、俺の知っている建物の形じゃなかった。

 空気のにおいも、違う。鳥の鳴き声も聞こえない。極たまに小動物は見掛けるけど、どれもこれも、俺の記憶には無い姿形の動物で。

 まるで、地球じゃないみたいだ、と思った。けど、ここは地球で、俺はここに帰ってきたんだ、と。本能のようなものが告げていた。

 あぁ、そうか。

「本当に、滅びたんだ。……地球……」

 クルル達はずっと、そう言っていたのに。ずっと実感がわかないままで、クルル達と行動してここまで来て。それで、今になってじわじわと実感がわき始めている。

「……言っただろう? 覚悟を決めておけって」

 クルルの声が、耳の奥でジンジンと音を立てる。俺は思わず歯を噛み締め、同時にポケットの中のスマホを左手で握りしめた。

 スマホに届いていた、親からのメールが頭を過ぎる。

 おふくろは、俺が生きてると信じてる、って書いていた。親父は、命ある限り待ってるって書いていた。

 ……おふくろ、信じてくれてた通り、俺、生きてたよ。生きて、地球に帰ってきた。

 けど……親父、ごめん。待っててくれたのに、親父達が生きてる間に帰ってこれなかった。些細な事で喧嘩して、謝る事も無いまま二度と会えなくなるなんて、あの時は思ってもみなかった。……本当に、ごめん……。

 涙が出た。ぼやけて前が見えない。ぼやけて見えないから、俺の頭を撫でたり、背中をさすったりして慰めてくれたのが誰か、わからなかった。

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