第8話

「とりあえず、ワープはわかるな?」

 おやつを口に放り込みながら、クルルが訊いていた。流石の俺も、ワープはわかる。同じようにおやつを頬張りながら、頷いた。

 因みに、おやつはアップルパイだ。出来立てでホカホカな上に、バニラアイスまで添えられている。俺がこの船で食べる初めてのおやつだって事で、ピューレが地球の過去のおやつ文献を調べてくれたらしい。

 ざくざくしたパイ生地に、しつこ過ぎない甘さのリンゴ。それに、口の中でゆっくり溶けていくバニラアイスクリーム。……美味過ぎる。

「今の時代、ワープは宇宙中でよく使われる航路となっているんだ。使えば、一瞬で長距離を移動できるからな。使わない手は無い」

 俺が頷くと、クルルは「だが……」と言葉を濁した。

「治安を守る……何て言えば良いのか。……そう、宇宙警察のような組織があるんだが、その組織以外の船は、決められた航路以外でワープをしてはいけないと決まっているんだ。決められたポイントから、決められたポイントまで。それ以外の場所でワープをしてはいけない。そして、その決められたポイントの事を、ワープポイントと呼んでいるんだ。ショウの暮らしていた時代で言うなら、高速道路みたいなものだな」

 なるほど。高速道路は決められたポイント――インターチェンジからしか入れないし、出る事はできない。そして、スピードを出して急ぎたければ高速道路に入らなければならない。つまり、ワープポイントというのは高速道路のインターチェンジみたいなものか。

「けど、何で決められたポイントだけ? 車は、場所を決めなきゃ危ないからってわかるけど……」

「誰でも彼でも好きな場所から好きな場所へワープできるようになったら、宇宙海賊が活動範囲を大幅に広げる事になるからな。だから、事前に登録された警察というべき組織の船以外はポイントを守るし、登録されていない船がポイントを使わずにワープをしたら即座に検知及び捕獲される」

 なるほど。たしかに、さっきの奴らみたいなのが好き勝手にワープできたら、大変な事になりそうだ。

「あと、一度のワープで進む事ができる距離は決まっています。あまり一気に長距離を進むと、船も乗組員も、負担が重くなり過ぎてしまいますから」

「終わった後、すごくがっくりくるんだよね、疲れてさ。だから、ワープ前にはしっかりと食べて、疲れてるようなら寝て休んで。元気な状態になっておかないといけないんだよ?」

 そう言いながら、ミルはおかわりしたアップルパイにフォークを入れている。目の前に皿が既に五枚ほど積み上げられているのは、言及しない方が良さそうだ。

「そんなわけで、食べ終わって少し休んだところで、地球の最寄まで行けるワープポイントに突入する。……ショウ」

「な、なんだよ……?」

 思わず身構えた俺に、クルルは軽くため息を吐いた。

「……覚悟を、決めておけよ」

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