第53話 望まれざる地

-- フェオドール


「千年振り、くらいでしょうか。お元気そうで、何よりです」


聖神が、穏やかな表情で、魔神に話しかける。

フェオドールは、忌々しいと感じた。


魔神は、五感をほぼ失っており、その原因は聖界の侵攻。

良くもまあ・・・


「聖神よ。此度は、ご足労願い、感謝する。そなたの美しい声音は心地良いが、早速本題に入らせて頂きたい」


「異世界からの知識流入・・・その様な疑いをされたのは、誠に心外で、幻滅致しましたわ」


聖神が、笑みを崩さず、残念そうに言う。


魔神が、淡々と調査結果を告げると・・・


「なるほど、確かに、偶然とは言え、疑わしい状況ですね。事実とは異なりますが、その指摘は受け入れます」


ファーイーストから提供された報告書は、良くまとまっている。

次元境界への接触の兆候まで、調査して添付されているのだ。

流石に、無視はできない。


「では、ペナルティは私から提案──」


「聖柱を1つ、明け渡します」


魔神の言葉を遮り、聖神が笑みを浮かべたまま告げる。


「遠隔地の柱を渡されても利用できないし、明け渡されてもすぐに奪還されるのでは意味が無い」


魔神が首を横に振る。


「では、魔界と隣接する地、また、此度の聖戦の間はその聖柱の奪還も、都市への進行もしない、と約束しましょう」


女神が告げる。


「その土地に住む人間はどうなる?」


魔神の問いに、


「引き上げさせます。もし、残る者がいれば、貴方達の好きにして構いません」


・・・何と言う横暴。

フェオドールは、吐き気を覚えた。

聖神の傍に侍る者・・・恐らく、人間の最高司祭とかいう奴だろう。

驚きに目を見開いている。


「信じて頂けなかったのは、残念の極みですが・・・お互い、遺恨を残さないように、正々堂々とやりましょうね」


聖神はそう言うと、優雅に聖神界へと戻っていった。

フェオドールは、表情に感情を出さないよう、気をつける。


魔神界に戻ってから、魔神は、


「・・・すまないな、まさか聖神が禁忌を犯すとは・・・子等には、迷惑をかけた。柱を移譲されても、活用は難しかろうが・・・其方に委細を任す」


そう、フェオドールに告げた。


--


「・・・新たな領地・・・?」


エルクは、リアの報告に、困惑の色を浮かべる。


魔王フェオドールから、報告書や物資の報奨としてもたらされたもの・・・それは、魔界へと譲られた柱の管理だった。

場所は、ファーイーストとは海を挟んだ、聖界側の都市。

たしか・・・アルケーとか言ったか。


純粋に働きが評価された、というよりは、純粋に土地の活用に困ったからだろう。

ミーミルは護りには硬いが、他に兵力を割くほどの人材はいない・・・というか、先日2人、重鎮が減っている。


「領地に関しては委細を任す、聖界軍は例外的にその都市には攻め入らないと約束したそうです」


「つまり、防衛の為に兵士を置く必要は無いと言う事か・・・?治安維持の為には必要だが」


正直、聖界側の領地など、貰っても困る。

エルクには、ファーイーストを豊かにできればそれでいいのだ。


「さっそく1つ目、ですね。あとは11本です!」


「もうこれ以上手を伸ばす気は無いからな?」


アンリのボケに、エルクが突っ込む。

平行世界のエルクは全世界を統一したらしいが・・・そんな事は不可能だし、そんな気も無い。


新たな領地とは言っても、聖戦が終わったら、奪還に来る可能性が高い。

聖戦の間は攻め込まない、そんな約束だ。

ファーイーストと違い、守るには難しい土地・・・奪還は容易だろう。


委細を任す。

なら・・・放置してしまうのが良い。

エルクはそう考えた。

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