第52話 魔陣・ムスペルヘイム

魔都ミーミル。

難攻不落の要塞都市。

過去数千年、最前線に位置し・・・現在もその名声を保っている。


人間共が投入した兵器・・・あれは・・・間違いなく異界の技術が用いられている。

家程も有る箱から放たれた光・・・移動式魔砲砲台、といった所か。

魔砲を移動させる・・・そんな発想は、我々に無い物だ。


無論、それだけでは、アレクシアの様な天才が思いついただけかも知れないが。

だが、ファーイーストを攻めた数々の新兵器・・・あれは、間違いないだろう。

聖神は・・・禁を犯している。


ミーミルを襲う猛攻。

だが、無駄だ。

魔陣・ムスペルヘイム。

あらゆる攻撃を無効化してしまう。

魔砲・レーヴァテインと同時には使えないのがネックだが・・・


「お兄様、ミーミルから情報提供の依頼が有りました」


リアが運んできた報告・・・これは・・・


「これは、御神からの命令だな」


エルクは、驚きの声を漏らす。


ミーミル王フェオドールから、魔神に奏上があり。

魔神から、ファーイーストヘ、情報提供の依頼が出たのだ。


「聖神が使った兵器の情報・・・それを資料に纏めれば、参考になるかも知れん」


エルクがそう呟くと、



アレクシアが、エルクに資料を渡す。

聖界軍が使用した『飛行機』の『写真』と。

『紙』に『インク』で文字を書き、特徴、奇異性、推測、等が綺麗に纏まった資料。

エルクはざっと目を通し、改めて聖神の違反、この世界への裏切りを確認する。


「有難う、アレクシア。素晴らしい出来だ」


エルクは、称賛を込めそう言うと、アレクシアの頭を撫でた。

流石だ、と思う。

既にこの事態を予期して、資料を準備しておくとは。


「これをミーミルに届けてくれ」


リアは微笑み、資料を受け取った。


--


-- フェオドール


魔都ミーミル。


ゴウッ


聖界軍の放った魔導砲が、外の結界に当たって弾ける。

実害は無いが、煩い。


フェオドールは、ファーイーストから提供された資料を読み、


「・・・やはり、聖神は──聖界は禁忌を──」


予感はあったが・・・それは確信に変わった。

説得力は十二分・・・聖神に突き付ければ、言い逃れはできまい。


フェオドールは、傍に控える、虚ろな瞳の少女の顎を掴み、


「お前の元飼い主は、相当な悪人だぞ?聖神、が聞いて呆れる・・・なあ?」


「あ・・・あ・・・」


心を壊された少女には、その言葉は理解できない。

主の不機嫌を察し、苦痛を与えられる事を予期して・・・その体を固くする。


どん


フェオドールは少女を突き飛ばすと、


「アリセリー!御神に奏上する。準備せよ!」


側近の名を呼ぶ。

魔神は、否定的であったが・・・この資料を見せれば、首を縦に振るだろう。


それにしても・・・


ファーイーストは、辺境の貧国と侮っていたが。

聖界の軍勢をあっさり降し、この報告書の完成度、そしてついでの多量の食料支援・・・


先日、我が軍が大敗したのも納得だ。


認めるべきだろう。


ファーイーストは、強国であると。

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