第51話 圧倒的な技術力の差

・・・冗談では無い。

エルクは、冷や汗が顔を伝うのを感じた。


「偶然・・・では無いのか・・・?異世界知識をこの世に流出させるなど・・・そんな暴挙、許される訳がない・・・」


だが、そのエルクの言葉に。

リアが首を振って、


「・・・いえ、可能性は有ります。我らが御神、魔神様は、五感を害しておられる・・・聖神の監視は、不十分でしょう・・・それに・・・規則を守る存在、聖神が禁忌に手を出すなど、想像できる筈が有りません」


そう。

もし本当に聖神が異世界知識を流用したなら・・・

いや・・・


知識、だけなのか?


異世界の猛者を召喚し、戦いに参加させる可能性も有るのではないのか?


エルクは、青くなり・・・だが、その瞳に紅い光を浮かべ。


「聖神が何をしようが・・・俺は、この国を護る。別働隊は・・・全滅させる」


エルクは、冷然と告げた。

手を出せば手痛く噛みつかれる・・・それを、聖神に、最高司祭とやらに、分からせてやる必要が有る。


エルクは、一瞬思案をし・・・すぐに、迎撃の指示を出した。


--


山道を進む、聖界軍。

重厚な装備に反し、その足取りは軽やかだ。

神聖術を利用した、重力軽減。

10万という大軍、しかし・・・高い訓練を施された、精鋭達だ。


上部からの魔法に対抗できる、大きな魔道盾。

敵が待ち伏せるポイント・・・そこは既に割れている。

そこを、この盾で防いで乗り切れば・・・後は、無防備な荒野が広がるのみ。

10万もの大軍が、王都を一瞬で蹂躙するのだ。


別働隊と連携する必要は無い。

もしも自軍が壊滅しても・・・敵の損害は極めて大きいだろう。

消耗戦になれば・・・魔族に未来は無い。

戦力差、というのは・・・そういうものだ。


予想に反し、山を降りるまで、攻撃は無かった。

拍子抜けした軍は、そのまま砦へと──


「て、敵襲だ?!」


無数の影が、自軍を蹂躙する・・・その影が通った後には、かつての同僚の死体・・・


「退却、退却だ!」


混乱の中、叫ぶが・・・


影は、次々に同胞の命を奪っていく──


ゴガッ


山が破壊され、土砂が流れ・・・

長く伸びていた隊列の後方・・・魔の山の中にいた部隊は・・・次々に生き埋めとなる。


生存者、ゼロ。

それが、魔の山を選んだ者達の、末路であった。


--


「この『戦闘機』、という魔道具は凄い・・・流石最高司祭様だ」


魔道具、『戦闘機』に乗った兵士達が、何度目か分からない、賞賛を贈る。

危険な海を乗り越える為に考えられた秘策・・・空を飛んでファーイーストの首都を攻める。

圧倒的な兵力差に加え、圧倒的な技術力の差。

それは、戦闘では無い。

悲しいまでの一方的な虐殺であった。


ゴッ


不意に、爆発音が響く。


ガガ・・・


飛び交う、悲鳴の通信。

無数の影が・・・空を飛び・・・

『戦闘機』を1機、1機、と切り裂いていく・・・


ゴウッ


いや。

固まっている箇所があれば、容赦なく、大規模な魔法が空に描かれる。

そして・・・


生存者、ゼロ。

それは、戦闘では無かった。

悲しいまでの、一方的な虐殺であった。


--


星座の間にて、戦況を見守るエルク達。

映し出される映像。


ファーイースト軍・・・白い人型のゴーレムに乗った兵士が、強化された速度と、強靱な魔道装甲、鋭利な魔道大剣を武器に、次々と敵を屠っていく。

貯蓄した魔力を利用して、各種補助魔法を自動行使し・・・凄まじい戦闘能力を発揮するゴーレムだ。

中に乗った兵士が適切な指示を出す事で、無敵の強さを発揮する。


魔力を外に漏らさない様に走る隠密性や、空中高速移動魔法による空中高速機動・・・正に、万能の兵士として活躍する。


アレクシアの発想と、アンリの知識。

その集大成とも言える魔道兵器。

これが、ファーイーストが誇る、奥の手だ。


「聖神が、禁忌に手を出したのかは分からない・・・だが・・・魔の国の民は、そんな卑劣な手段では・・・負けはしない」


エルクが、噛みつくように唸った。

異世界の知識を流入させる・・・それは・・・

この世界で生きる者達への裏切り。

この世界で生きる者達の可能性の否定。

許すべからざる・・・禁忌。


「ミーミルは防戦一方ですけどね」


リアが、困った様に呟いた。

エルクは、溜息をついた。

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