第50話 禁忌

ファーイースト。

吸血鬼の王、エルクが治める、最果ての地である。


その大地は肥沃で、雨は多く、生態系は非常に豊かだ。


特に、首都、ファーイーストの美しさは、神が住まう地の様だ。

中央からは光の魔法が込められた水が湧き出・・・四方八方へと、水と魔力を供給している。

整然と、四角く整備された区画・・・大通りは魔道具が敷き詰められ、昼夜を問わず光り輝いている。


叡智を集めた図書館、地脈を操り首都へと魔力を集める装置、数多の商店・・・

多数の教育機関や、研究所も立ち並ぶ。


聖戦が始まって5年が過ぎたが。

聖界は不気味な沈黙を続け・・・ミーミルも専守防衛を貫き・・・

最果ての地、ファーイーストへの侵攻は、最初以来無く。

ファーイーストは平和を謳歌していた。


エルクは、ファーイーストで開発された魔法端末・・・『タブレット』を操作する。

各地の情報・・・水の量や、食料の備蓄、土壌の状態、その他材料の不足・・・常に更新され続ける情報を、容易に確認する事ができる。

アレクシアは、本当に天才だ。

次々と、思いも付かない発明をする。


天才と言えば、セリアもだ。

アレクシアが次々と作る、新種の作物。

それから、セリアは他種の料理を考案した。

エルクが気に入っている、『ワイン』という飲み物も、その1つだ。

その料理で恩恵を受けているのは、エルクだけではない。

セリアはその料理の方法を広め、城下町には膨大な数の料理店が並ぶ。


軍事面の増強も図られている。

エルクや眷属達だけではない。

一般の兵士も、練度が上がり・・・また、画期的な魔道具を身につけ、聖戦開始時とは比べものにならない強さとなっている。


だが・・・平和な日々は、終わりを告げた。


聖界の侵攻・・・第2陣が、やってきたのだ。


--


これは・・・また、同じ手か?


エルクが呻く。


地図に映し出された、無数の△のマーク。

黄色い色が、聖界軍。

ミーミルに迫る軍・・・5万と言ったところか。

一方で、魔の山に登る軍・・・10万と言ったところか。

そして・・・海から2手に分かれて迫る軍・・・10万ずつ。

都合、35万・・・魔族には考えられない数だ。

人間が増えるのが早い、というのも有るが・・・純粋に、面積の差でも有るのだろう。


アレクシアが考案した、戦術マップ。

これのお陰で、敵の侵攻の様子が手に取るように分かる。

各地に配置した、情報取得用の魔道具から、情報が送られているのだ。


「拡大」


エルクがコマンドワードを発すると、意図した位置の映像が浮かび上がる。


「・・・見た事が無い物が多数あるな・・・新種のキメラか、ゴーレムか・・・」


巨大な魔導砲のついた車、無数の巨大な魔獣、家ほどの大きさの車まである。

新兵器の投入・・・あれでミーミルが揺らぐとも思えないが。


山の侵攻部隊を映し出す。

前回は身軽な者が多く・・・狭い地で上から魔法を浴びせたら、簡単に逃げ帰ったのだが。

今回は、重装備の者が多い。

みな、大きな盾を持っている。

山道を登るのは大変だと思うのだが。


そして、海。

・・・あれは・・・?

エルクが訝しむ。

鳥、だろうか。

無数の鳥が飛んでいる。


「あれは・・・飛行機・・・ですね」


アレクシアが吐き捨てる様に言う。


「飛行機?」


エルクが尋ねる。


「はい・・・私も、詳しくは無いのですが・・・異世界には、ああやって空を飛ぶ道具があるそうなのです」


「異世界・・・?」


エルクは嫌な予感がする。


「まさか・・・聖神は・・・禁忌に手を出したのでは・・・?」


セリアが青くなって呻く。


「・・・異世界・・・知識・・・」


パラスが、枯れた声で呟く。

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