第49話 最高司祭アレス

空中に浮かぶ小窓。

そこには、ミーミルへと攻め入る、人間の軍が映されている。


此処は、星見の間。

エルクのお気に入りの部屋だ。


部屋には、エルク、ジャンヌ、眷属達、そしてリアがいる。


とぷとぷ


エルクの横に侍るセリアが、エルクのグラスにワインを注ぐ。


「人間共、何が狙いだ?あんなに近付いては・・・」


エルクが、訝しげに言う。


コウッ


ミーミルから放たれた光が・・・人間軍の一角、6割程を、


「魔砲・レーヴァテイン。霊廟から供給される魔力を利用した魔導砲・・・俺でも、いや、パラスですら、一瞬で蒸発するだろう」


魔都ミーミルは難攻不落。

外からの攻撃で落とすのは非現実的だ。

過去の聖戦で、人間は十二分に知っている筈なのだが・・・失伝しているのだろうか?


慌てて、人間軍は散開するが・・・

城壁に取り付けられた無数の魔導砲に狙われ、着実にその数を減らしていく。

初戦は、人間側の敗北と言える。


だが。


エルクは、別の小窓に視線をやる。


聖女

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今の戦いでは、聖女は倒されていない。

一方、霊廟の魔力は無尽蔵だ。


つまり、今の戦闘は、双方にとって意味が無いものだ。


「これは・・・今回の聖戦も、長引くかな」


魔王が専守防衛、人間側が戦力の出し惜しみを続ければ、ずるずると聖戦は長引くだろう。


「この様に、ミーミルを正面突破する・・・かに見せて」


アレクシアが、ぽつり、と語り出す。


「敵の総司令官、最高司祭アレスは、天才・・・豊富な戦力を活かし、膨大な量の兵を囮として用い・・・」


アレクシアが、映し出した先。

そこは・・・ファーイースト、魔の山に接する砦・・・


そこに続く道を行軍する、万を超える兵士達・・・


「あれだけの数の別働隊を用意できるとは・・・しかもあのルートは・・・魔獣の群れがいる筈だが、全て対処したと言うのか・・・」


エルクが呻く。


「何という事でしょう・・・魔の山から進軍は無いと、無警戒の我が国の背面からの急襲・・・我が軍は耐えられるでしょうか・・・?」


アレクシアが嘆く様に言う。


「いや、元から警戒はしているし、今から追加の兵も向かわせるからな」


エルクが半眼で言う。

後2日程で到着、と言ったところだろうか。

意表を突かれたのは確かだが、補足できているのだから恐れる事では無い。


「それだけでは有りません」


アレクシアが映し出す別の映像・・・そこには・・・


数万・・・十万を超えているかも知れない、圧倒的な数の兵が・・・海を前にして立ち往生している姿。


「更に、海からも圧倒的な大軍が攻めてきております・・・ミーミルを正面突破すると見せかけて、豊富な別働隊で先にファーイーストを狙う・・・これが、最高司祭アレスが最高の戦術家と呼ばれる所以です」


「氷の海が溶けた結果、進軍できなくなって、立ち往生しているがな」


エルクが突っ込む。

まあ、ここ数百年、氷に閉ざされていた海が、突如温暖な海に変わっているのだ。

むしろ、情報収集を怠らず、対策してきている方が変態と言うべきだろう。


海岸線に兵士を配置するか・・・?

エルクがそう考えた矢先、


ゴウッ


海から出てきた炎のドラゴンが、敵の一軍を焼き尽くした。


「・・・おい、あれは何だ?」


エルクが訝しげに問う。


「熱帯魚ですね」


アレクシアが胸を張って言う。

インフェルノドラゴンが、何故あそこにいるのか・・・

いや、良く見たら、異常な強さの魔物が他種見られる。

元々の寒冷な海より、遥かに難易度が上がっている。


まさかあんな奴等を捕まえてきて放流しているとは。

単に説得して誘致しただけかも知れないが。


「・・・人間共が、アレ等を突破できそうなら、また報告をくれ」


エルクは、海からの侵攻は放っておいても良い気がしてきた。


「分かりました」


アレクシアが深々とお辞儀した。

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