第47話 オリオン座

星座の間。

エルクの最近の、お気に入りの場所だ。


半球状の部屋で、昼夜を問わず、空に星が輝いている。

無数に散りばめられた宝石が、規則的に光っているのだ。


星空は擬似的な物で、実際の星空とは異なる。


果実を発酵させた紅い液体、ワインを口に含み。


「ご主人様〜」


パラスが部屋に駆け込んで来る。


「どうした、パラス」


この部屋には、限られた者しか入室しない。

エルクの楽しみを邪魔しない為だ。


無論、妻たるパラスは入室が許されているし、パラスの入室はエルクの気分を害しない。


「うわ、やっぱり綺麗ですね。僕も本物は見た事がないんだけど・・・あのオリオン座の並び、好き」


パラスが見惚れた様に言う。


「オリオン座の並び?」


エルクが小首を傾げる。


パラスが、ふと気付いた様に、


「そう言えば、僕って、ご主人様と2人きりって、珍しい気がします!」


そう言うと、エルクに飛び込んだ。

エルクはパラスを抱き止め、


「そうだな」


そう言うと、パラスの頭を撫でてやる。

パラスは目を細める。


夜は複数人の事が多く、朝は、エルクが起きる頃にはパラスは既に起きて走り回っている。

執務はノエルと、普段はセリアが傍に侍り。

多種の計略は、アレクシアと行う。

視察はアンリに乗って。


「ご主人様、僕を可愛いがって下さい!」


パラスが抱きつく力を強める。

エルクはくすりと笑うと、


「構わん。パラス、今はお前のものだ」


そう言うと、パラスに口づけをする。

そっと、パラスの背中に手を回し・・・


「んん・・・ご主人様ぁ・・・」


とろんとした声で、パラスが鳴く。

エルクは、再び、パラスの唇を塞いだ。


--


「〜〜」


言葉にならない言葉を歌い、パラスがエルクの腕に顔をすりつける。

エルクはパラスに毛布をかけてやりつつ、パラスの頭を優しく撫でる。


ふと、パラスが気付いた様に、


「あ、ご主人様ぁ。ごめんなさいです、忘れてました」


困った様に言う。


「どうした、パラス」


そう言えば、入ってくる時、少し慌てていたな。

エルクはそう思い出し、尋ねる。


「えっと、ミーミルが攻めてきました」


「何?!」


エルクが驚きの声を上げる。


「それは僕が撃退したのですが」


パラスが続ける。

エルクは、ミーミル軍の被害状況が気になった。


「とにかくご主人様に伝えなきゃ、と思って、急いで来ました」


「・・・そ、そうか」


すぐに状況を確認しなければ。

エルクは扉に視線をやる。


「でも、ご主人様を見て、かーって、好きってなって、ぽーってなりました!」


「そ、そうか・・・」


可愛いな!

エルクは心の中で呻く。

ミーミルより、パラスが気になるが・・・優先度を取り違える訳にはいかない。


--


「もう終わりましたよ?」


リアが、小首を傾げ、報告する。


「被害状況は?」


エルクが問うと、


「ファーイースト軍に被害は有りません」


リアが、微笑を浮かべ、告げる。


「敵軍、ミーミルの損耗は?」


エルクの問いに、リアが視線を逸らす。


「・・・アレクシア義理姉様が帰還されたら、報告頂きましょう」


リアが答える。

なるべく損耗が少ければ良いのだが・・・エルクは、呆然と祈った。

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