第46話 決闘
「雨、か」
エルクは、感慨深く呟くと、セリアが入れてくれたコウチャを飲む。
アレクシアの話を聞いた時は半信半疑だったが、氷の魔物を駆除したことで、雨が降るようになった。
アレクシアは、地図とにらめっこ。
貯水池を潤した水は、そのまま溢れ、土壌を海へと流してしまう。
計画的に地面に穴を掘り、溝を作って、被害を軽減させているが。
雨の度に情報を集め、調整を続けている。
それでも、人々の生活は、確かに楽になった。
「土壌改良、が必要ですね」
アレクシアが、ぽつりと呟く。
「豊穣の恩恵、か」
エルクが呟く。
魔柱の力が弱いファーイーストでは、土壌は極めて貧弱だ。
魔法で魔柱の恩恵を真似て見たが・・・上手くいっていない。
アレクシアは、穏やかに首を振ると、
「土壌の質とは、土の中の栄養素や、土の中にいる生き物で決まります・・・つまり・・・」
アレクシアが空中に、図を描く。
「パラボ豆を大量生産、後、焼却。土に鋤き込む・・・これを繰り返せば、土壌は豊かになります」
「いや、ならんだろう」
エルクが突っ込む。
使用した力と、得られる結果の、収支があっていない。
「・・・まあ、やってみるが良い。必要であれば手を貸す」
エルクの言葉に、アレクシアがぺこりと礼をした。
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「人間の叡智とは、素晴らしいな」
エルクは、感慨深く呟く。
海の温度を上げることで、雨が降るようになった。
パラボ豆は、水さえ与えれば、貧弱な土地でも生育する・・・それを大量に育て、燃やし、鋤き込めば・・・いつの間にか、土壌が良くなっていた。
豊穣の大地、とまでは言えないが。
それでも、十二分の農作物が作れている。
副産物として大量に出回るパラボ豆と、流通を始めた海産物。
エルクが嫁を貰って帰還してから・・・ファーイーストの暮らしは一変していた。
潤沢な水と食料。
そして・・・アレクシアが開発する、見た事がない作物の数々。
セリアは、食べ物の概念を革新した。
塩や、植物を腐らせた物、乾燥させた物・・・そういったものを料理に使う事で、食材が全く違う顔を見せるようになる。
セリアに料理を教わって、店を開く者も出てきた。
聖戦の開始まで、あと1ヶ月。
ミーミルは、苛烈な進行を受けるだろう。
ファーイーストは、ミーミルに協力するいわれは無いが。
食料支援くらいなら、してやっても良い。
エルクは、くすりと笑う。
食料事情が良くなると、寛大になるのだ、と。
自分でも可笑しかった。
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「・・・魔王権をかけた決闘・・・?」
リアの報告を聞き、エルクは怪訝な顔をした。
「行く必要が無い。ミーミル王、フェオドールは、俺よりも魔王として優れている」
聖女と聖獣を
わざと負けるのも癪だし、何とかして回避すべき提案だ。
「食料供給を条件に、辞退の方向で調整してくれ」
エルクがリアに指示を出す。
食料は余っているし、元々、聖戦が始まれば援助の必要は有るのだ。
ミーミルが陥落すれば、ファーイーストは聖界と接してしまう。
数日後、ミーミルから来た回答は、
「人材の供出か、決闘か、選ぶように迫ってきました。どちらも拒否した場合、手痛い教訓を与える事になる、との事です」
リアの報告。
「・・・この時期に、何を考えているんだ?」
エルクは呻く。
「ミーミルの狙いは、ファーイーストの併合、でしょうか?」
アレクシアの問い。
「そうだ。恐らく、決闘の場で、俺の首を狙うつもりなのだろう。以前からその兆しはあったが、聖戦まで1ヶ月を切ったこの時期に・・・」
エルクは頭を抱え、唸った。
「怖いですわ・・・決闘を辞退し、条件を固辞すれば、攻め込まれるのでしょうか・・・」
セリアが不安気に言う。
「攻め込まれて、撃退は難しくないが・・・手酷い損害を与えれば、聖戦が不利になる。とはいえ、軽くあしらえば、再侵攻という暴挙に出るだろう」
エルクは、フェオドールの首を締めてやりたい気分だ。
「宜しければ、私が人材としてミーミルに赴きましょうか?滅ぼすのは難しく無いと思いますが」
アンリの提案。
「滅ぼすな?!ミーミルには、勇者や聖女どもと戦って貰わねばならん」
エルクがつっこむ。
「何で勇者をそんなに敵視するの?!」
「勇者を敵視しないで、何を敵視するんだ?!」
ジャンヌの良く分からないボケに、エルクがツッコミを入れる。
「ともかく・・・聖戦が始まるまで、何とか時間を稼ぐぞ」
エルクは、重々しく言った。
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