第45話 熱帯魚
朝。
エルクは、ゆっくりと顔を上げると、目を開ける。
日は高い。
久々にゆっくり寝たようだ。
隣には、ノエル。
エルクを見て、微笑んでいる。
「おはよう御座います、エルク様」
「おはよう、ノエル」
柔らかいノエルを再び抱き締め、口づけをする。
ノエルがそっと横を向き、首を差し出す。
ごくり
ノエルの血で喉を潤す。
ノエルは、何時も控え目で・・・でも、嬉しい場所にいる。
結局、昨日はノエルには手を出していない。
今日はノエルと・・・エルクはそう考える。
「エルク王。本日は、セリア様達は海へお出かけに。リア様は防衛の為に残られています」
「海に・・・?昨日も行ったが・・・危険じゃ無ければ良いが・・・パラスがいれば大丈夫だろうか」
一応、腐っても亜神。
フィロルドがあの辺りでは1番強い。
少し離れた所にいる海蛇神、紫魔鯨等を除けば・・・いや、群れると厄介か。
まあ、一応ジャンヌは地元民。
無茶はしないだろう。
エルクはセリアが作り置きしてくれていた朝食を摂ると、執務に取り掛かる。
ほとんどはリアが片付けてくれているのだが・・・一部、判断が必要な物を判断していく。
「エルク王、そろそろ出立の準備を」
ノエルがエルクを促す。
貯水池への補充。
時間がある時に行う必要がある。
数ヶ月に1回で良いので、そこまで手間では無い。
必要最小限しか使っていない、という事の裏返しでもある。
貯水池や、視察等を含めたスケジュールを、ノエルが全て管理している。
王の補佐をしていた、というのは流石だ。
ノエルの方が上質の水を、少ないマナ消費で生み出したので、結局ノエルが補充した。
水との相性が良いようだ。
アンリが、ノエルは別の世界では水の聖女だと言ってたっけ。
夕食。
帰ってきたセリアが、御馳走を作ってくれた。
今日も海の幸尽くしだ。
「今日は、あの海亀のスープは無いのかい?」
エルクが尋ねる。
普通に美味しい方の海亀のスープは有るのだが、変わった器──ワイングラスと言うらしい──に入ったあの至上の美味のスープは無い。
「すみません・・・今日は『海亀のスープ』は、素材が確保できなくて・・・ただ、デザートに、蛇のソルベを用意しております」
セリアが微笑む。
蛇のソルベも、至上の美味だった。
ただ、これも素材は希少らしい。
蛇・・・海蛇神とか捕獲すれば、案外美味しいのかも知れない。
海産物は大量に捕れたらしく、各地に配給する事になった。
--
「熱帯魚の移送?」
エルクが問い返す。
数日間、毎日の様にセリア達は海に食材を探しに行っていたが・・・飽きたのだろうか。
尚、翌日に鯨のステーキが出たのを最後に、至上の美味シリーズは途絶えた。
「今更生態系を論じはしない。そもそも、生態系が崩れた結果、氷の海になっていたからな。だが・・・熱帯魚を移送しても、生存は難しいだろう?」
エルクは、困惑した様に告げる。
本来、定期的に介入すべき所を放置し続けた結果、氷の海となっていた。
放置し続けて2千年程か・・・暖かい海に変えるには、どれだけの歳月を要するか。
熱帯魚──熱帯地方に住む、火のマナと相性の良い魔物や、精霊の事だろう。
氷の属性が強い、近隣の海では、かなり制限を受け・・・しかも、大量にいる氷属性の魔物から排斥される。
「大丈夫ですよ。氷の魔物は、粗方処理できました」
アレクシアが微笑む。
?!
「・・・いつの間に・・・」
エルクは呻く。
相当な量がいた筈だが・・・まあ、氷属性の魔物を一旦駆除できたなら、確かにチャンスだ。
「分かった、熱帯魚の移送を許可する」
エルクはそう告げた。
・・・街でやたらと海産物を見ると思ったら。
まあ、住民は喜んでいたから良いか。
盾の聖女に聖獣・・・本当に恐るべき存在だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます