第44話 海亀のスープ

夕食。

セリアが腕を振るった、美しい料理が並ぶ。

新鮮な海の幸。


「素晴らしいな、セリア。芸術品の様に美しい」


「皆様が良い品を入手して下さったお陰です。お口に合うと良いのですが・・・」


食卓には、エルクと、セリア、パラス、アレクシア、ノエル、アンリ。

そして、リアとジャンヌ。

エルクの左隣には、セリアが自然と座る。

右側は、その日によって違う。

今日はリアだ。


透明なゼリーがついた、蟹の爪。


はむ


口に入れると、濃厚な蟹の味が広がる。


「美味いな」


「ゴールデンクラブキングの刺身でございます」


「サシミ・・・生のまま食べると、ここまで美味いとは」


セリアの解説に、エルクが顔をほころばせる。

みんなも夢中で食べている。

特に、ジャンヌとパラス。


「これも美味いな」


「海鳥の塩焼きでございます」


海鳥・・・グレーターシーロックか。


「これも絶品だ」


「海藻サラダですね。果実から作ったドレッシングをかけてあります」


本当にセリアは料理が上手い。

上品で優しく、綺麗で・・・荒事は苦手そうなので、しっかり守らねば。

エルクは改めて心に誓う。


「これも美味い」


「海亀のスープでございます」


セリアが微笑む。

海産物、というものは、口にしていなかった。

海がアレなので、危険過ぎたのだ。


変わった容れ物に入った、血のような液体を口に含み・・・


「うまっ?!」


思わずエルクは叫ぶ。

血のような見た目だが、血ではない。

濃厚なマナを直接味わう様な・・・これ迄の食事が霞んでしまうほどだ。


「こ・・・これは一体・・・?」


つと、セリアは目を逸らすと、


「えっと・・・海亀?のスープですかね?」


冷や汗を流しつつ、答える。

さっきと同じ?!

だが、それ以上踏み込む事に躊躇を覚え、エルクは『海亀のスープ』を堪能する事にした。


--


夜。


城内は、静かな・・・しかし、緊張感のある空気が流れていた。


口火を切ったのは、ジャンヌ。


「僕は、エルクの親友だ。親友・・・言うまでもなく、1番大切な、かけがえない存在・・・しかも、久々の再開。言いたい事は、分かるよね?」


それを聞いたパラスが、告げる。


「僕は、エルク様の妻だよ!妻、友人とは違うんだ。いつまでも手付かず、って言うのはおかしいよね?つまり、今日は・・・」


いや、パラスは何だか幼い感じがして、少し待つつもりだったのだ。

エルクは冷や汗が出るのを感じた。


妻を優先すべき・・・それは、正しい。

だが、眷属化しないから妻にはしていないが、ジャンヌも特別な存在。

しかも、長く待たせていた。


「私も、お預け状態ですね。やはり、私には魅力が無いのだろうか?」


「いや、そう言う訳ではない。アレクシアはとても魅力的だよ」


アレクシアが悲しそうに言うのを、慌ててエルクがフォロー。

そもそも、みんな出会ってからの日数が少ないのだ。

手付かずの嫁がいるのは、仕方がない。

・・・そもそも、遠慮もあったし。


「ご主人様?」


セリアが、低い声で尋ねる。

え。

謎の寒気が・・・?

大人しいセリアに怯える要素は無い筈なのに。


「お兄様、今日はリアと一緒に寝てくれる約束ですよね」


「いや、それは違う」


リアの発言を、エルクが否定する。

否定してから気付く。

リアが優しさから、助け船を出してくれていたのだろう。

しまった。


「じゃあさ、第一婦人のアンリに決めて貰ったらどうかな?」


パラスの提案。

確かに、誰か一人が決めれば──


「パラス様、何を仰るのですか。筆頭眷属はセリア様です。そもそも、エルク様の夜の生活は、メイド長の管理することですよね」


「何で?!」

「そうだったの?!」


ジャンヌ、パラスが叫ぶ。


「そうですか・・・では、私が決めますね」


セリアが微笑む。

優しいセリアが決めれば、大丈夫だろう。

エルクはほっと息をつく。


「今日は、全員です」


笑顔でセリアが告げる。

・・・エルクはこれでも、ヴァンパイアロード。

今宵を乗り越えるのは、難しく無い筈だ。

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