第43話 氷亜神、フィロルド
「此処が、城から最も近い海辺だな」
エルクが告げる。
セリアとリアは、留守を守っている。
本来はリアとジャンヌが留守を守る事が多いのだが、ジャンヌが強行に同行を主張したのだ。
気温は、低い。
零下60度くらいだろうか。
海辺、とは言っても、凍り付いている。
「・・・泳げないね!」
パラスが残念そうに言う。
パラスは布地の少ない服を着て、中に空気の詰まった輪っかを持っている。
アレクシア作らしい。
寒そうだが、薄い盾を展開しているらしく、大丈夫らしい。
「とりあえず燃やしますか?」
アンリが尋ねる。
「氷が割れたら、海魔が出てくるぞ」
エルクが半眼で言う。
「海魔って美味しい?」
パラスが尋ねる。
「さて、セリア様にお土産に持って帰り、調理して貰ったらどうでしょうか?」
アンリが提案。
「そうする!」
タッ
パラスが海に駆けて行く。
「おい、パラス、待て──」
エルクが止めようとしたところ、
ガシッ!
砂浜から巨大な黄金色の蟹が出現、目にも止まらぬ早さでパラスを──パラスの盾に弾かれて、蟹の鋏が泊まっている。
流石聖女・・・と。
「すまん、パラス。反応が遅れた」
アレクはそう言うと、闇の槍を複数出現、蟹に投げつける。
ザシュッ
あっさりと貫かれ、蟹が息絶える。
「んーん。このくらいの攻撃なら平気だよ!それより、蟹、蟹だよ!!」
パラスは凄いはしゃぎようで、蟹を持ってこっちに駆けてきた。
パラス、結構力あるよな。
蟹は、息絶えた直後から、氷り始めている。
この極寒のせいだ。
「これは美味しそうな蟹ですね。この様子なら、海魔にも期待出来そうですね」
アンリがパラスに微笑む。
いや、関係ないだろう。
エルクが突っ込む。
「・・・あのゴールデンクラブキングの攻撃をあっさり防ぐなんて・・・エルクも、一撃であっさり貫いて・・・凄まじい力だね」
ジャンヌが呻く。
確かに・・・攻撃を防いだパラスにも驚いたが、自分の魔法があっさりとゴールデンクラブキングを貫いたのにも驚いた。
光の様な動き、そしてオリハルコンおも弾く殻・・・魔法にも絶大な耐性を持つ。
本来は関節の所を狙うのだが。
あっさりと甲羅を貫いてしまった。
「私もいきますよ!」
アンリが叫び、火炎を・・・放つ。
超遠距離射撃。
海岸線から離れた場所から放ったそれは・・・海面に着弾、蒸気を吹き上げつつ、海を割り、氷が天を突き割れ・・・
ガシャアアア
気化した水がすぐに氷結。
空気が光る。
「欲深き炎よ!」
アレクシアが、闇が混じった炎を放つ。
アンリが放った炎とは異なり、氷の上部に陣取ると、そのまま燃え・・・着実に氷を溶かしていく。
「・・・魔物が寄ってこなければ良いのだが・・・」
エルクは溜め息をつくと、
「踊れ」
黒い炎が飛び、氷面を飛び跳ねる。
ぽん
ジャンヌが、アレクシアの肩を叩く。
「・・・何かな?ジャンヌ殿」
アレクシアが嫌な顔をジャンヌに向ける。
「アレクシア。あれだよ、あれ」
どれだよ。
エルクは思わず突っ込む。
ゴウッ
アンリが矢継ぎ早に炎を放つ。
意外と魔物来ないな・・・警戒しているのか?
エルクは訝しむ。
まあ実際、離れて、エルク達が去った後で、また冷気で満たせばいいだけではある。
「いくよおおおお!」
ジャンヌが駆ける。
「おい、ジャンヌ?」
エルクが呼び止め──
「我が右手には憤怒の槍!」
ジャンヌの叫びと共に、右手に巨大な炎の槍が出現。
思いっきり海に投げ込む。
じゅわああああああ!
「な・・・何て威力だ?!」
エルクは驚愕の声を上げた。
しかも、使ったのは超高難易度魔法。
威力も馬鹿げた威力だ。
エルクが操るそれには遥かに劣るが・・・ジャンヌが普段操る魔法に比べたら、格が違う。
何故だ・・・?
「召喚、サラマンダー!射貫け、黄金の矢!迸れ稲妻!」
ジャンヌが矢継ぎ早に魔法を放つ。
・・・まあ、いいか。
エルク考えるのを諦めた。
それより・・・あまり魔法の濫用は、マナを消費して、大気を痩せさせるのだが・・・
かといって、最近の海の魔物の我が物顔は、確かに困っていた。
ここらで嫌がらせしておくのも良いだろう。
「獄炎、走狗」
エルクは炎の犬を複数創り出すと、次々と海へと突撃させる。
氷を突き抜け、水の中を駆け・・・
ギイアアアアアアアアアア
海面に飛び上がるは、海龍。
「どかーん!」
すかさず、パラスが盾を纏って飛びかかり、海流を弾き飛ばした。
そのまま絶命する。
ゴッ
不意に、周囲の気温が更に下がる。
「・・・来たか・・・」
エルクが呻く。
撤退するべきか・・・?
氷亜神、フィロルド。
此処から少し離れた場所に住む、主の様な存在だ。
・・・お前の領域はもう少し向こうだろ、エルクが突っ込む。
「誰かと思えば、ファーイーストのぼんぼんではないか。我が眷属、我が領域に手を出し、無事で済むと思ってはおらぬだろう?どういうつもりか?」
フィロルドの問いに、
「・・・海龍どもは貴方の眷属ではないし、貴方の領域はもう少し向こうの筈だが」
エルクが言い返すと、
「余も最近は顔が広くなってな。こやつ等も我が眷属である」
フィロルドが威圧する様に告げる。
さて・・・どう出るべきか、エルクが迷──
「どかーん!」
パラスが盾を纏って、フィロルドに突っ込む。
フィロルドの首が飛ぶ。
?!
「き・・・貴様・・・?!」
すぐに蘇生、首が再生、パラスに向けて無詠唱で蒼い光を無数に放ち・・・
チッ
パラスの盾に全て弾かれ、逸れる。
「どかーん!」
再度突撃。
「ま・・・待──」
ゴスッ
再度宙を舞う首。
ゴッゴッゴッ
何度も突撃し・・・
沈黙。
・・・
「これ、食べれるかな?」
パラスが尋ねる。
「・・・その辺に転がっている海龍や、下を泳いでる怪魚にしておけ」
エルクは疲れたように呟いた。
・・・聖女の中でも最低ランクと聞いていた盾の聖女・・・
エルクは、パラスが味方である事に心底安堵した。
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