第42話 柱の加護

「案内は、このくらいか。見てもらった通り、ファーイーストは決して豊かな国ではない。雨も降らず、土壌は痩せている。土壌も痩せている。近隣の森や山で魔物を狩り、飢えるという事は無いが」


贅沢は出来ないが、まあそれなりに暮らしている。


「とりあえずは安定した水の確保ですね」


アレクシアが呟く。

それができれば良いが、なかなか難しい。


毎日水を魔法で作れば、王都だけならマシになるが。

ファーイーストは広い。

他の地域での実施は現実的ではない。

一応、ため池に水を作ってまわっているが、貴重な水で、丁寧に使わせている。

それに・・・

魔法を恒常的に使えば、マナの枯渇を招く。

水を潤沢に得ても、大気が痩せたのでは、意味が無い。


「水と土壌・・・柱の加護はどうなっていますか?」


ノエルが尋ねる。


降水量、土壌の質、そういったものに影響を与える要素として、柱の加護がある。

魔柱、聖柱、その周囲は、豊かな恵みを得られるのだ。


「魔柱は、王都に有りますが。恵みはほぼ皆無です。元々、地形的に重要性が低い土地なので、送られる力も弱く・・・特に、御神が御力を失われてからは、ささやかな力しか」


リアが首を振り、答える。


「やはりここはノエル様が水の聖女に目覚められて、その御力で水を湧き出させ──」


「聖女を増やすな。・・・そもそも、あり得ないが」


エルクが突っ込み、遮る。


「私は・・・アンリ・・・の世界では、聖女だったのですか?」


ノエルが尋ねる。


「はい。エルク様の眷属となった後に、目覚められたそうです」


アンリが答える。


「眷属となった後に・・・?それはあり得ない筈だが」


エルクが呻く。


聖女選出は、人間から行われる。

囚われた人間等は除外されると聞く・・・候補者を地下牢に閉じ込めておいて、いったことが出来ないように。

ましてや、眷属になった人間が対象となる訳がない。


「他にも違和感が有りますね。水の聖女・・・聖女としての力は決して低く無いですが、水を湧き出させる──事象の固定なんて、実現出来ない筈。似たような平行世界のようですが、異なる部分も大きそうです」


アレクシアが思案気に言う。


「ノエル様の御力に頼れないとなると、どうすれば・・・」


アンリが言うと、


「水を恒常的に得る、ですか。海水を煮詰め、蒸気を冷却すれば水ができますが、輸送が非現実的ですね。そもそも、降雨が皆無なのが・・・そうなると、海からの蒸気が地形的に遮られる事と、近隣の海の水温ですね」


アレクシアが告げる。


「雨の量は、マナの属性と量で決まるはずだが・・・?」


エルクが訝しげに問う。


「はい。勿論その影響も有るのですが・・・物理的な自然現象として、今申し上げた要素も影響するのです。そもそも、水蒸気の量がマナの存在率にも影響しますし」


アレクシアが答える。


「周辺の水温は低いですね。属性も、冷属性が優勢・・・何せ、氷魔や冷獣、氷亜神までいますから」


リアが嘆く。


「つまり、冷属性の魔物達を倒すか追っ払えば、海が温かくなって雨が増えるって事ですね」


アンリが頷く。


「・・・無茶を言うな。量も多いし、あいつら強いんだ。周囲のマナ効果で強化されてる奴や、水の中では強くなる奴もいるし・・・」


エルクが呆れた様に言う。


「でも、エルク様。行動しないと何も変わりません。豊かな国にする為に、水は必須・・・みんなで力を合わせれば、きっとなんとかなる筈、です!」


アンリが、エルクの手を取って言う。


「・・・まあ、現実を見たら分かるだろう。くれぐれも無理はするなよ。近づかず、遠くから見るだけだからな」


エルクは、溜め息をつくと、そう言った。

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