第40話 勇者
「此処が魔界・・・聖界で感じていた息苦しさが無いですね」
セリアが嬉しそうに言う。
「ああ。お前達は闇の者になったからな。魔界、魔柱の力及ぶ場所ではその力が増し、逆に聖界、聖柱の支配する地では、その力が激減する。聖に属する者は、その逆だな」
これが、魔界側が簡単には敗北しない理由。
侵攻側が、圧倒的に不利なのだ。
エルクは、リアとジャンヌがバルコニーにいる事に気づいた。
手を振ると、一同、城へと歩き出した。
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「お帰りなさいませ、お兄様」
リアが、可愛らしくお辞儀をする。
「流石です・・・まさか、5人も眷属を入手されるなんて」
リアがうっとりとして続ける。
ジャンヌは、半眼で呻く。
「エルク・・・君・・・なんて事を・・・」
「ん、どうしたんだ?」
眷属を一度に沢山作り過ぎただろうか?
軽い男と思われたか?
エルクは、困惑した表情でジャンヌを見る。
「聖女を眷属にするなんて・・・君達も君達だ。聖女の使命はどうした?自由意志を持ったまま眷属になるなんて・・・」
パラスが聖女だと気づいたのか?!
・・・いつかは話そうと思っていたが・・・まさか一目で見抜くとは。
「パラスが聖女だと気付いたのは流石だな、ジャンヌ。そうだ・・・パラスと、アンリ──スフィンクスの事は、絶対にバレる訳にはいかない」
エルクが、重々しく言う。
「お兄様・・・聖女を従えたなら、そのお力は海よりもなお深いものなのに・・・魔王になる気は無い、と言う事ですね」
リアが、呆れと──安堵が混じった口調で言う。
「当然だ。俺の野望は、この国の王として、ミーミルの影に隠れ、安穏と暮らすこと。魔王なんかになったら、聖戦に借り出されてしまう」
エルクが、毅然として言い放つ。
「いや、エルク?聖女・・・パラスちゃん・・・?だけじゃなくて──」
「ねえ、ご主人様──勇者ってどう思われますか?」
不意にアレクシアが、ジャンヌの発言を遮り、エルクに問いかけた。
勇者・・・?
エルクは質問の意図が分からず、困惑する。
「勇者──魔族の仇敵だな」
「ぐふ」
何故かジャンヌが膝をつく。
「まず、名前が恐ろしい。いかにも、魔族滅ぼしますって感じだ。能力もおかしい。不死身な上、単独でも極悪・・・仲間と徒党を組めば、神をも恐れぬ強さ・・・まさに天災」
勇者は、聖戦にあわせて生まれる存在。
聖女、魔王、闇の巫女・・・そこに加わる存在だ。
まず基本能力が凄まじく高い。
次に、聖女と連携し、更にその力を飛躍させる。
最後に・・・死んでも、魔王が存在している限り、復活する。
むろん、即復活する訳では無いが。
悪夢の代名詞だ。
「あ・・・あの・・・良い勇者もいると思うよ?」
ジャンヌが言う。
「『良い』勇者はいるだろうな。むしろ、『悪い』勇者なんて聞いたことが無い」
エルクが半眼で言う。
人間にとって良い勇者・・・つまり、魔族にとって都合が悪い存在だ。
「『悪い』勇者もいると思うなっ」
ジャンヌが食い下がる。
なんで?!
「・・・ジャンヌ殿。我々は味方だ。お互い、情報は明かすべきだと思う。隠し事は良くないですよね。・・・ところで、何か言いかけましたか?」
アレクシアが尋ねると、
「いやあ、パラスちゃん・・・盾の聖女、だっけ。素晴らしいね。頼もしいよ」
ジャンヌが朗らかに言う。
あれ、盾の聖女って教えたっけ。
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