第39話 王の不在
王、とは、国の象徴である。
国の最高能力者にして、守護者。
実力よりも、その名前、その存在は、極めて大きな拠り所だ。
ファーイースト。
吸血鬼の集う国。
それなりの実力者はいて、純粋な戦闘力で言えば、王たるエルクを上回る者も多い・・・が。
やはり、心の支えとしては、大きい。
王の不在。
それは、国の留守を預かる者達にとっては、試練であり・・・
そして。
その試練は、やってくるものなのだ。
王妹たるリアの預言。
そして、それは、王の親友たるジャンヌによって確かめられた。
聖獣の侵攻。
冗談の様なその事態は、刻一刻と迫っていた。
「・・・どういう事だい・・・ミーミルの奴等が馬鹿な事を考えて攻めてくる・・・くらいは考えていたけど・・・聖獣が来るなんて、一体何が・・・?」
ジャンヌが焦りを口にする。
普段は脳天気なジャンヌが、真剣な面持ち。
極めて珍しい事で・・・それだけ異常な事態という事だ。
俯き、静かに魔力を練るリア。
だが、その表情は暗い。
最愛の兄が居ない、その事も、心に強い負荷をかける・・・
「リア様、避難が間に合いません・・・」
兵士が焦りを滲ませた声で告げる。
街からの移動、という事は既に諦めた。
地下の施設への避難を指示したが・・・そもそも、そこまで多くの人を収容できる訳では無い。
混乱もある。
接近の速度が異常なのだ。
肉眼で視認できた頃には、次の瞬間には王城はその手に掛かっている可能性が有る。
「力を・・・使います」
リアが宣言。
どこまで対抗できるかは分からない・・・が。
それでも、兄に頼まれたこの地を護る。
命に・・・代えても。
バルコニーに出たリアは、強い吐き気を覚えた。
その横に並ぶジャンヌが、泣きそうな声を出す。
「・・・何・・・あれ・・・?」
聖獣だけじゃない。
僅かに感じ取れる力・・・その力は・・・圧倒的な強さを感じた。
懐かしい気がするのだが・・・それ以上に・・・異常。
まるで、深海の底に潜って、海そのものを相手にしているような・・・そんな恐怖。
「何が・・・起きているのでしょうか・・・?」
リアが、座り込みそうな体を叱咤激励し、何とか踏みとどまる。
そして──
次の瞬間、それは、城の中庭に降り立った。
--
「着きましたよ、エルク様!」
笑顔で告げるアンリの頭を、エルクがぐりぐりと挟む。
「離れた所に降りろと言ったよな?!部下がもの凄くびびってるんだが?!」
エルクが低い声で告げる。
連絡も無しに聖獣が飛んできたら、そりゃびっくりするだろう。
エルクは、泣きそうになっている兵士達に、労いの声をかける。
安堵で、腰を抜かして座り込む兵士が多数。
「エルク王よ。そちらの・・・聖獣と、他の方は・・・眷属の方でしょうか?」
部下がエルクに尋ねる。
「ああ、そうだ。聖獣も俺の妻だ」
「聖獣も、ですか。流石は王」
部下が唖然とした様子で言う。
「・・・とりあえず、城に入ろう。リアとジャンヌにお前達を紹介しなければな・・・アンリ、早く人型になってくれ」
「はい」
フォン
アンリが人型になると、周囲がまたどよっとする。
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