第36話 [幕間][ノエル]水に育まれし毒女
私、ノエル=レイアーは、レイアーの王家に長女として産まれました。
魔性の美しさはないが、万人に好かれる容姿、らしいです。
魔力、魔法の構成能力、魔法の知識、その他学問・・・そしてそれを応用する知恵・・・この国でも屈指の存在と言われます。
国民と触れ合うのが好きで、色々な話を聞いて・・・献策を行い、結果私を慕ってくれる国民は多いようです。
弟にニルス=レイアーがいました。
決して才能に溢れたわけではないが、人が良い性格で、他人の意見に良く耳を貸します。
自分の考えも持っており、決して他人に流されてばかりという訳でもありません。
それは王として十分な才覚です。
早くして父王がなくなるりました。
私を担ぐ者、ニルスを担ぐ者・・・家来が2つに別れました。
私は家来に厳命しました。
ニルスを王にするように、と。
結果、争いは起きず、ニルスが王となりました。
決断が必要な時、戦いが必要な時、外交が必要な時・・・
私は王の姉として、その役目を果たしました。
16歳を迎えた後、柱の国ユグドラシルの王から、妾として婚姻を結ぶよう、要請が来ました。
断ったからと言って、武力で攻めることは許されません。
私はこれを拒否しました。
ある日、レイアーの象徴たる水の流れが、若干淀む様になってきました。
レイアーは、周辺にある柱の3国の力が交わる地。
レイアーの水が淀む筈がありません。
しかし実際には起きている・・・可能性としては、ユグドラシルが何かをしたのでしょうか?
そんな事できる筈が無いのですが・・・
しばらくして、親友の女性騎士、将軍にして若き英雄・・・クロエがユグドラシル王に嫁ぐ、という話が出ました。
私は驚きましたが、クロエが決めた事なら反対できません。
ユグドラシルは大国。
例え妾とは言え、そこに嫁げば、素晴らしい地位を得ます。
クロエが嫁いで間もなく、水の淀みはなくなりました。
しかし数ヶ月して・・・また水の淀みが現れました。
そして、ユグドラシル王から、再度私に対し、求婚が行われました。
私はこれを拒否しました。
しかし、ユグドラシル王からの求婚はそれから定期的に来るようになりました。
また、ユグドラシルとの貿易で、何かと理由をつけては関税等を上げ、貿易で不利になるようにして来るようになりました。
これは、私が嫁がないから嫌がらせをしているのでしょうか?
私は自分の将来を特に考えてはいませんでしたが、レイアーを離れる気は有りませんでした。
婿をとって、レイアーで暮らすのも悪くない、と漠然と考えていたくらいです。
私が嫁ぐことでレイアーが豊かになるなら・・・ユグドラシル王の要求に応えるのも悪くないかもしれない・・・そう悩みつつ。
そんな折、城に来客が有りました。
一人は既知の人、ラムダ村の村長です。
何かあったのでしょうか?
そしてその護衛の人達・・・美しい人達でした。
特に男性の方・・・魂が惹かれる感じがしました。
危険な美しさを感じました。
部屋に着くと、村長が何時もの様に跪く。
辞めて欲しいと何時も言っているのですが・・・おや、連れの女性まで何故か跪いています。
そして・・・アンリ様?!
幼い頃遭った聖獣様・・・危険な美しさを持つ方で、私に案内を命じました。
私はその命令に従い、案内をしました。
案内した先には、旅人が歩いていました。
その旅人は魔族、吸血鬼とのことでした。
今からその吸血鬼と戦う・・・差し違える覚悟だと・・・アンリ様は言いました。
これが私とアンリ様の出会い・・・しかし・・・
あの時のアンリ様は、全ての悪を滅ぼす絶大な意思を感じました。
目の前のアンリ様は、愛情に溢れた方に見えます。
魂の輝きから、同一人物だと思うのですが・・・
魔族が近くにいると性格が変わるのでしょうか?
村長との話は終わり、村長は退室。
アンリ様があの後どうなったのか・・・少し聞いてみる事にしました。
しかし、あまり聞かれたくないご様子・・・
私は、失礼を詫び、立ち去ろうとしたら・・・呼び止められました。
男が魔族なのは驚きましたが、悪い方ではなさそうです。
そして、アンリ様が別のアンリ様・・・少し混乱はしましたが、色々納得はできます。
男・・・エルクさんの眷属になるように求められますが・・・その理由は有りません。
私は国に必要とされています。
私が居なくなれば・・・ニルスは王の勤めを果たすでしょう。
一時的に混乱は起きるかも知れませんが、今まで私とニルスの二重権力になっていたのが、ニルスに一本化します。
それは悪くない気がします。
ユグドラシル王は、レイアーに興味を失うかも知れません。
少なくとも、今より悪い状況にはならないでしょう。
勿論、次に目を付けられた国が被害に遭う可能性はあるのですが・・・
エルクさんの眷属となったらどうなるか・・・目の前のアンリ様が答えのような気がします。
とても楽しそうにしておられます。
そして・・・私自身、エルクさんには何故か警戒感を抱けません・・・むしろ、魂が惹かれる気がします。
それでも、理由がない事はできません。
私はこの国にこの身を捧げるのです。
そこで出てくるクロエの名。
此処とは別の世界で、酷い目に遭ったとの事。
その世界の聖神は何をやっていたのでしょうか?
無論、この世界のユグドラシル王にも、その願望はある可能性は有りますが。
連れられて行った先で見た惨状。
私は自分の愚かさを悟りました。
聖神の目が行き届いたこの世界で、悪い事は出来ない?
気付くことは出来た筈でした。
後から考えたら、たくさんのヒントがあったのに・・・私が思い込みで全て無視していたのです。
いえ、違います。
私が考えたくなかったから、考えないようにしていたのです。
私は弱い・・・卑怯だ・・・
クロエは全てに気付いていたのでしょう・・・もしくは脅されたのかも知れない・・・最後は笑って出て行った・・・あの裏ではきっと、鉄の意志を秘めていたのでしょう・・・
ニルスを王にしたのも、私は逃げただけ。
その後、国を出て行かず、存在を示し続けたのも・・・自分の卑怯さ故ではないか・・・
私はこの国を出るべきだ。
そして目の前には甘美な誘惑がある。
私の弱さも・・・愚かさも・・・全てを包み込んでくれそうな。
別の世界の私は、私よりも愚かではなかったと思う。
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