第35話 闇結晶

「着きました」


4時間程の飛行の末、ユグドラシルに着く。

視認を阻害する魔法を行使しているとの事で、周りからは見られていないようだ。

・・・そんな便利な事が出来たのか。

もっとも、優秀な魔導士にはばれているらしく、何か騒いでいるが。

姿をはっきり見えなくても、魔力の流れ等である程度は分かる。


「・・・流石、聖獣様ですね・・・」


ノエルが呆然として言う。


「それでアンリ、その塔というのは何処なのだ?」


エルクが尋ねると、


「分かりません!」


アンリが元気に返事する。

おーい。


「隠蔽、探査」


エルクが魔法を構成。

申し訳程度に偽装を施す。


「・・・!」


エルクが息を呑む。


「ノエル殿、刺激が強い可能性があるが・・・どうする?」


「・・・見ます!」


エルクは城に隣接する塔を指さし、その後、空中に光の鏡を出現させる。

そこに映った光景は・・・


ユグドラシルの王、ギュスターヴが、年端も行かぬ少女を・・・

少女の表情から、意識が混濁した状態だと言う事が分かる。


「これが妾として迎えられた者かは分からないがね。人間は同族間で奴隷制度がある所もあると聞く。そういう所から『正規』に購入した可能性はある」


「・・・大丈夫ですよ、あの女性は、隣国の第四王女。一月前に嫁いだ方です」


ノエルが無表情になって言う。


「エルクさん・・・あの塔の先端にある黒い塊・・・破壊出来ますか?」


「あれは・・・成る程」


エルクは納得した。

闇結晶。

本来は、魔族が設置して、力を発揮しやすくする為の物だが・・・聖神からの監視を逃れる疑似魔界を創り出しているのだろう。


「壊れろ」


エルクの魔法により、闇結晶が連鎖的に黒い光の泡となって消えていく。

塔の先端に有った物を含め、都合30個。

全て破壊する。


これで、聖神の監視、そして教会の介入・・・ギュスターヴはその地位を追われるだろう。


「エルクさん・・・クロエを探して頂けますか?」


「了解した」


アンリも人化し、浮遊と隠蔽を使いながら、塔に潜入。


「階層毎に人を捕らえているようだが・・・」


扉を開く度、悲惨な光景が目に入るが・・・ノエルはふるふると首を振る。

3階に繋がれていた女性の一人にノエルが近づき、


「クロエ・・・クロエ・・・私が分かりますか・・・?」


「ふふ・・・もう時間・・・ですかあ・・・?はやく・・・はやく・・・」


虚ろな目で答える、クロエと呼ばれた女性。


「・・・ノエル殿、その女性は・・・肉体的にも精神的にも、薬と魔法に侵され、治療は不可能だ。魂が汚染に引きずられる前に楽にしてやるのも手だが・・・」


「エルクさん・・・何とかならないでしょうか・・・?何でも致します・・・だから・・・」


「私も何とかしてやりたいが・・・とりあえず体を蝕む毒だけでも・・・」


エルクが解毒の魔法を行使。

桁外れの効能を持つそれは・・・しかし、薬と魔力の汚染は除去出来ても、壊れた心は戻らない。


「クロエを・・・連れて帰りたいです・・・」


「それは構わないが・・・」


エルク達は、クロエを連れ、再びアンリに跨がりレイアーを目指す。


城に戻ると、ノエルはエルクに礼を言い、クロエを連れて立ち去った。

聖神からの隠蔽・・・まさかあんな事をしているとは・・・


「元の世界ではむしろ、隠蔽の必要がなかったんですけどね」


アンリが言う。


「そうなのか?」


エルクがきょとん、として尋ねる。


「はい。・・・何せ、聖神がむしろ非道を推奨しておりましたので・・・ですので、元の世界では、多くの民、そして聖獣が、エルク様についたのです」


「・・・成る程。それが聖獣であるアンリが俺の部下になっていた理由か」


エルクは村長を見つけると、待っていた村長に詫びる。


「気にしないで下さい。私は知己と歓談しておりましたでな」


村長はレイアー城に知り合いは多いようだ。


さて・・・戻るのに隠蔽かけたアンリで飛べば早そうだが・・・

エルクがそう考えていると、


「エルクさん!」


ノエルがとてとてとエルクの方に駆けてくる。


「すみません・・・内密にお話が有りまして・・・」


「分かった、先程の部屋でいいかな」


村長とアンリを残し、最初の部屋に戻る。


「エルク様・・・私を・・・眷属にして下さい」


ノエルがエルクをまっすぐ見つめ、そう言った。

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