第34話 ばれた

「・・・すみません・・・それは・・・言えません」


アンリが申し訳無さそうに言う。


「そうですか・・・時間を取らせて申し訳ありませんでした」


ノエルが頭を下げる。

さて・・・話はこれで終わり、後は村に帰って・・・


「・・・あのっ!」


アンリが食い下がる。


エルクとノエルの頭に疑問符が飛ぶ。


「ノエル様、何か困っていることはありませんか?」


「えっと・・・困っていることですか・・・?特には有りませんね・・・?」


「ほら、ユグドラシルから何か無茶な要求をされているとか!」


「・・・ユグドラシルの王から、妾として私を指名されたのは確かですが・・・流石に無茶をしては聖神が黙っていません。そこはちゃんと断れました」


聖神は、人同士の争いには流石に介入仕切れないが・・・

国と国との話ともなれば、教会の助けも借りつつ、きっちりと介入してくれる。


アンリがかなり困った様子でおろおろする。


「どうした、アンリ?」


「うう・・・エルク様・・・このままでは・・・」


アンリが涙目でエルクに訴える。


「アンリ様、どうされました?」


ノエルもきょとん、とした顔でアンリに尋ねる。


「このままでは・・・ノエル様をエルク様の眷属に出来ません・・・」


「おい」


「・・・眷属・・・?」


エルクとノエルがアンリに突っ込みを入れる。


エルクは軽く溜息をつくと、


「ノエル殿、これは内密に願いたい。私は吸血鬼の王、無論人間の味方ではないが・・・現状敵対する気はないし、聖戦の間は自国に引き籠もる予定だ」


付け加える。


「・・・ついでに言えば、先程出た聖界に紛れ込んだ吸血鬼、は私の両親だ。目的も、私の体を治す為で、別に聖界で何か良からぬ事をしていた訳では無い」


「・・・以前のアンリ様は、聖神を崇拝しておられました。魔の存在を滅する事に執着しておられたので・・・事情はどうであっても、容赦はされなかったとは思います」


「・・・何やってるのよ・・・こっちの私・・・」


アンリが頭を抱えて唸る。


「・・・こっちの私・・・?その表現からすると・・・異世界から来られた、同一存在・・・とかなのでしょうか?」


ノエルがアンリに尋ねる。


「あ・・・」


アンリがしまった、という顔で固まる。

ややあって、観念したように・・・


「・・・分かりました。全てお話しします・・・」


ぐったりとしてアンリがそう言った。

エルクも初耳の話だ。


「アンリ、俺は外に出ておいた方が良いか?」


「いえ、エルク様もお聞き下さい」


アンリはそう言うと、話し出す。


「・・・話せば長くなるのですが・・・私はこの世界と平行に存在する別次元から来ました・・・元の世界と、この世界では、少しずつ違いが有るようです」


「この世界の私が今も存在しているのか、エルク様の御父母と相打ちとなったのか・・・そのあたりは分かりません」


「そして元の世界では・・・エルク様は5人の人間を娶っておられました・・・セリア様、パラス様、アレクシア様・・・そしてノエル様です。もう一人はジャンヌ様ですね。私はただの部下でした。王妃様方には、大変お世話になっておりました」


「・・・それでお前、時々妙な発言をしていたのか・・・」


「はい。私は、エルク様と、王妃様方が仲良く過ごしているのを見るのが好きだったのです。ですので、どうしても一緒になって欲しかったのです・・・勿論、エルク様の嫁となった今の立場も凄く幸福です」


「私が・・・エルクさんの・・・お嫁さん・・・ですか・・・」


驚いたように言うノエル。


「無理に聞き出してしまった感じですね・・・確かに、以前お会いしたアンリ様と、今のアンリ様は、違う存在の様な気がします・・・それでいて、間違いなく同じ存在にも思えます・・・正直に申し上げれば、今のアンリ様の方が、優しくて心地よい気はします」


ノエルがアンリに謝罪する。


「あの・・・ですのでっ、ノエル様、是非エルク様の眷属に・・・!」


「・・・そうなる理由はないですね。弟のサポートも必要ですし、国民も大事ですし」


「大丈夫ですよ!ニルスは優秀です!ほら・・・あれです・・・ノエル様がいつまでもいると、ニルス様の成長や力の発揮を阻害すると言いますか・・・!」


「・・・痛い所を突かれますね。確かに、私が居なくてもニルスは十分にこの国を運営出来ますし、私を持ち上げようとする勢力があるせいでニルスに権力が集中せず、むしろ混乱を招いている面は有ります」


「なので・・・!ニルスが軌道に乗るまでの間だけでも眷属に・・・!」


ぴす


エルクがアンリにチョップする。


「こら、アンリ。ノエル殿が困っているだろう。後、眷属って一度なったら一生辞められないし、その人の全てを捧げるという事だ。お前が思っている以上に重い事だから、普通はならないぞ」


エルクはノエルの方を向くと、


「申し訳ないノエル殿、アンリが迷惑をかけた。ノエル殿は美しいし、聡明だ。そして魂の輝きも美しい。確かに妻に迎えられれば誠に嬉しいが・・・同時に、それがどれだけ無茶な願いかも理解している。そもそも、村人の件で借りがあるのはこちらだしな」


エルクが謝罪すると、


「いえ・・・こちらこそ・・・私の存在がむしろニルスの邪魔をしているのは確かですし、私のせいでユグドラシルにも変なちょっかいをかけられていますし・・・エルク様は美しいし、優しいし、誠実そうで・・・魂の輝きも、魔力の流れも非常に美しくて・・・うう・・・」


ノエルが応じるが、徐々に声が小さくなって行く。


「あ、あと、クロエっていう幼馴染みがユグドラシルの王に連れ去られたって聞きました!」


アンリが言う。


「クロエは、妾としてユグドラシル王に嫁ぎました。連れ去られた訳では無いですよ」


ノエルが否定する。


「えっと・・・ユグドラシル王は、妾として迎えた女性を塔に監禁し、薬物と魔力漬けにして、飽きたら処分すると聞きました」


アンリが言う。


「それは無理があるだろう。そんな行為は聖神が許さないし、柱の国の王族ともなればその行いは監視されているだろう」


「・・・確かに、手紙も送ってこなくなりましたし、手紙を送っても返事はないですが・・・まさか・・・」


「あ、では今から見に行きませんか!」


アンリが嬉しそうに食いつく。


「今から・・・?何日かかると思っているのですか?」


ノエルが困ったように言う。

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