第33話 可愛らしいメイド
城に着き、村長が名乗ると、兵士が中に入り・・・戻ってきて、入れと促される。
可愛らしいメイドがやってきて、こちらです、と案内してくれる。
蒼く短い髪、活発な印象を受ける女性だ。
魂の輝きも非常に好ましい。
エルクの視線に気付くと、にっこりと微笑みを返してきた。
うちの城で働いてくれないかな・・・エルクは思わずそう考えた。
俸給はそれなりには出すのだが・・・やはり魔界での生活を受け入れるとは思えない。
それに、メイドとして働いているからといって、地位がないとは限らない。
有力貴族が王宮に娘を送り込んでいる可能性もあるのだ。
部屋に着くと、村長が膝を着き、頭を下げる。
エルクが状況が飲み込めず、戸惑っていると・・・ふと見ると、アンリも同じ姿をしている。
村長が口を開く。
「お久しぶりです、ノエル様。ご機嫌麗しゅう御座います」
「お久しぶりです、デレックさん。そのような態度は取らず、どうか席に腰掛けて下さい」
ノエル、と呼ばれた女性が困ったように言う。
誰だろう・・・エルクは困惑する。
「エルク様、レイアーの王ニルスの姉君、ノエル様ですよ」
「ああ・・・ノエル殿、お初お目に掛かります。私は旅の者で村長殿の護衛で来ました」
流石に人間相手に跪きはしないが、軽く会釈して挨拶する。
あれ、今アンリの発言何かおかしかったような・・・エルクは違和感を覚える。
「よろしく御願いします。エルクさん。・・・そちらの女性は・・・」
そこでノエルがフリーズする。
「・・・まさか・・・スフィンクスのアンリ様?」
絞り出すように言うノエル。
「え、はい、そうです」
アンリが頷く。
「ご無事だったのですね。心配しておりました」
今度はノエルまで跪く。
「ノエル様、やめて下さい!そんな事されたら私・・・」
アンリが慌てる。
まあ、聖獣ともなれば人間の貴族程度では地位が釣り合わないし。
特に長に連なるスフィンクスともなれば、王族でも釣り合わない。
ノエルの態度の方が正常だったりする。
「・・・すみません、とりあえずお互い席に座るという事で・・・」
ノエルが提案し、エルクも含め、全員席に座った。
「とりあえず・・・先に用件を済ませましょう」
ノエルが促し、村長が説明。
ソロモンの兵士の悪行に顔をしかめ・・・
「分かりました。その50名はレイアーで受け入れます。農業地区を拡張出来ますから、とりあえずそこに入って頂いて、希望があれば移動も受け付けます」
ノエルが言い、
「有り難うございます」
村長が礼を言う。
王姉、王に口利きしてくれるのかと思ったが、決裁権があるようだ。
「それで・・・アンリ様に話しを伺いたいのですが・・・」
「私は席を外しましょう」
村長がすっと立ち上がり、部屋を出て行く。
「では俺も」
エルクが出て行こうとすると、アンリが止める。
「エルク様は大丈夫です」
部屋には、エルク、アンリ、ノエルの3人になる。
「お久しぶりです、アンリ様。あれから連絡が無かったので・・・無事目的を達成し、帰還されたのでしょうか?」
「えと・・・」
アンリの目が泳ぐ。
ノエルが少し戸惑ったように言う。
「なんと言いますか・・・アンリ様で間違いがない筈なのですが・・・アンリ様では無いような・・・?」
「あ、はい。多分、ノエル様の知っている私とは異なる存在です」
・・・どういう意味だろうか?
エルクが首を傾げる。
「・・・それは・・・どういう意味でしょう・・・?」
「えっと・・・詮索しないで頂けると有り難いのですが・・・」
困ったようにアンリが言う。
「先程、エルク『様』とおっしゃいましたが、聖獣の長の孫たるアンリ様が、誰かに仕えるとは思えません。何か事情があるのでしょうか?」
やっぱり長の系列・・・しかも直系か。
エルクが思っていたより血筋が良かった。
アンリがどう説明しようかと返答に困っているようだ。
「・・・確か、最後にお会いしたときに・・・聖界に入り込んだ魔族・・・吸血鬼を殺しに行く・・・とおっしゃっていたような・・・そこで何かあったのでしょうか」
エルクにはその言葉に思い当たる所があった。
エルクの父親と母親は、エルクの魔力ゼロ体質の治療法を探し、聖界を旅していたのだ。
そして旅先で殺されている。
アンリはその時の関係者?
なら、確かにエルクの事を知っていても不思議ではない。
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