第32話 レイアーへの旅路
吸血鬼化したばかりではあるが、アレクシアは調子が良いようだ。
旅で得た知識を活かし、村の防備を固めてくれている。
エルクはアレクシアの依頼で魔法を行使し、作業を手伝う。
堀の内側に監視台を作り、その上に巨大な弓を固定して設置。
また、特定の物質を混ぜ合わせることで、火を点けると激しく燃える粉、それを利用した武器等、様々な防備を設置していく。
エルクが尋ねたら、アレクシアは東方の国で得た知識だと教えてくれた。
アルケーより更に東らしいが・・・何かの隠れ里だろうか?
備蓄や防備も整い、アレクシアという戦力も増えた。
そろそろ、レイアーに交渉に行こう。
エルクはそう考えた。
アレクシアは、知識だけではなく、あらゆる系統の魔法を扱えるようだ。
もっとも、吸血鬼化する前は、魔力が無くて実際の行使は出来なかったようだが・・・エルクは自分の姿を重ねた。
ゴブリンに捕らわれて四肢が欠損していた女性も、治療したようだ。
まあ、アレクシアも元人間だし、助けてもそうおかしくはないだろう。
エルクは、その辺りの行動の自由は許すつもりだ。
エルクは村長と嫁を集め、打ち合わせを行う。
「レイアーに行き、この村の民の受入を依頼しようと思う」
エルクが言う。
移住先は、レイアー、及び山の向こうの村2つ。
「村長、レイアーに移住希望者はどのくらいで、他の村に行くのはどのくらいか?」
エルクが問うと、
「はい。元々別の村の女性、及び、他の村に親戚がいる者が約100人。レイアーへの移住を希望せず、他の村を頼る者が約50人。レイアーへの移住を希望する者が約50人となっております。何処も人手不足ですので、他の村への事前連絡は不要です」
「つまり、レイアーへは、50人の難民受入を依頼すれば良いのだな」
「左様でございます」
レイアーの現国王は聡明で人が良いと評判だ。
恐らく、受け入れて貰えるだろう。
エルクが集めた鉱石も手土産になるし。
レイアーは柱の都市でこそ無いものの、豊かな国だ。
市民権を得られれば快適な生活が約束されるし、難民扱いでも十分な支援が得られるだろう。
近くの村に身を寄せる方が、生活としては困難だ。
しかし、これまでの生活に近い暮らしが出来る。
懸念点は、アルケーの介入だ。
聖界から魔界への最短侵攻ルート上には無いものの、完全に否定は出来ない。
聖神の監視が緩めば、良からぬ事を考えたくなる。
一番良いのは、この村でそのまま暮らす事だろうが。
この立地で魔界に蹂躙もされず、聖界の介入も防ぐとすれば・・・圧倒的な戦力と、要塞のような護りが必要だ。
そんな事は現実的では無い。
「では、俺と村長、アンリでレイアーに向かう。セリア、パラス、アレクシアで村を護ってくれ」
エルクが宣言する。
「御願いします」
村長が頭を下げ、
「頑張ります!」
アンリが力強く応える。
「どうか・・・御願いします」
「任せて!」
「承知した」
セリア、パラス、アレクシアも応じる。
エルク達はラムダ村を出発、レイアーに向かう。
アンリに乗っていくと目立つので、徒歩での移動を選択した。
レイアーは、兵士を撃退した村の人を匿う形となるので、秘密裏に接触する必要がある。
徒歩だと数日かかる距離だ。
村長はそれなりに健脚ではあるが、一般人の範囲では、である。
エルクが魔法で身体強化をかけ、かなりの速度で歩けるようになっていた。
「止まれ、そこの奴等」
関所の兵士に呼び止められる。
村長が何か話し・・・
「通れ」
先へと進み・・・
3日かけて、レイアーへと辿り着いた。
「今日は宿を取り、明日城に向かいましょう」
村長の提案に従い、宿を取る。
アンリとエルクが同室、村長が一人部屋だ。
「エルク様・・・頑張りましょうね」
アンリがエルクの横に座り、もたれかかってくる。
「うむ。交渉するのは村長だし、顔見知りとの事だし、恐らく大丈夫ではあろうが・・・」
アンリがきょとん、とする。
「頑張るのは眷属捜しですよ?」
「・・・いや、今の状況下、流石にそれは優先度を下げるよ。とりあえずセリアの村の住民が落ち着いてからだな」
エルクが半眼で言う。
「お勧めは王女様です!」
「どんどん無茶さのハードル上げてくるよな、お前・・・」
エルクは、こいつめ、とアンリを抱き寄せる。
エルクはそっとアンリの唇を塞いだ。
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