第31話 [幕間][アレクシア]知識を求める少女
幕間私は、平凡な家庭に生まれた。
平凡な人生では無かった。
神童ともてはやされ、数多の知識を得、数多の発見をし、発明をして・・・
学生の身で、人類の生活の向上に、人類の脅威に、貢献したのは疑うべくも無い。
そして同時に、世間は私を知らない。
世間が知っているのは、私の親権者。
彼は救世主と呼ばれ、崇める者すらいた。
そこに不満はない。
私はただ、新しい知識を得、新しい発見をするのが、新しい事をするのが好きだったのだ。
だから、不満はなかった。
ある日、私は死んだ。
神に殺されたのだ。
まだ得ていない知識があった。
まだ試していない考えがあった。
私の親権者である男が焦るかも知れないが・・・それはどうでも良かった。
転生するのは構わない。
聖女の役目も必要なら行おう。
だが、前世の知識を使うなという制約は困った。
かといって、魔界に行くのはリスクが高すぎた。
自由を失っては困るのだ。
私の功績は奪われても良い。
私の思考は、私の試作は・・・その自由は奪われては困る。
転生後、私は小さな村に産まれた。
私は新しい世界で知識を集め、新しい世界の知識で事件を解決し。
新しい世界の知識で新しい仕組みを考案し、新しい世界の知識で・・・私は放浪の賢者となった。
体は虚弱、魔力も貧弱・・・魔法操作技術は知識でカバー出来ても、生来の資質の低さは仕方が無い。
智の聖女、の特性でもあるようだ。
自身の魔力の少なさや、身体能力の低さは。
努力しても、向上の見込みが無い。
残念ではあるが、仕方が無い。
聖戦の開始が近づく。
第二の人生の謳歌も、ここまでのようだ。
聖戦が始まれば、私は戦乙女となるだろう。
今ここで考えている私は、私ではなくなる。
智の賢者の戦乙女がどれだけ役に立つのかは知らないが。
知ったことではないが。
魔界を探るヒントがないかと、魔界の近接地にある村を訪れる。
見た瞬間魂が惹かれるのを感じた。
そこで、村の英雄の様に扱われる男が、魔族ではないかと疑い・・・
そしてあっさりそれを認めた。
納得する。
魂が惹かれたように感じた瞬間・・・あの時から、魅了を行使していたのだろう。
心地よいが・・・危険な心地よさだ。
聖戦が始まっても、魔界にいれば、聖神の目から逃れられる。
この男に取り入れば、魔界に行けそうだ。
参謀として魔界に行くことを提案・・・了承される。
そこで出てくる眷属の話。
安心させておいて、眷属にするつもりであったのか。
そして、自分の失態を求める。
既に自分はこの男に好意を抱いており、その魅力に抵抗仕切れない。
この男の為に自分の知恵を使って貰えたら・・・
自分の全てを使って貰えたら、どれだけ心地よいだろうか。
男に身を差し出す。
恐らく自分は、自分を失うだろう。
それは聖戦の開始と同時に自分を失うのと、変わらない。
だから、これは悲しむ事ではない。
そして自分は誤算を悟った。
自分は、自分のままであった。
あれだけ苦しんだ魔力の少なさが、嘘のように解消した。
あれだけ苦しんだ身体能力の低さが、嘘のように解消した。
そして、男の腕の中は・・・その口づけは、非常に心地が良かった。
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