第30話 汚されし叡智

「それは構わないが・・・貴方はそこまで戦闘に長けている訳では無さそうだ。最低限の護衛はさせて貰うが、保証は出来ないぞ?城で働く従業員、部下、そういった者なら、こちらもそれなりの護衛はさせて貰うが・・・」


エルクが答える。


「それに、魔界の情報を聖界にもたらされると非常に困る。それ故、聖界に戻ろうとするなら、その命は無いものと思って欲しい。それでも構わないか?」


アレクシアが考え込み、


「では、城で参謀役として働く、魔界からは出ない、この条件なら大丈夫でしょうか?魔界には是非行きたいのです」


アレクシアが決意を込めた目で言う。


「そういう事なら構わない。貴方を参謀役として採用しよう」


エルクが答えると、アンリが口を挟む。


「あれ・・・アレクシア様はエルク様の眷属にはなられないのですか?」


エルクはアンリの方を見ると、


「普通はそう簡単に眷属になるものではない」


エルクはアレクシアを見ると、


「人間の参謀、実際知識も知恵もあるようだし、我が国にとっても悪くない話だ。対等の関係であり、眷属にならなくても城で働く事は可能だ。眷属となると言う事は、魔族に全てを捧げること。普通の人間なら避けるだろう・・・無論、俺以外の誰かに捕まって無理に眷属にされるリスクはあるが、それは承知して欲しい。城の中ではある程度保証するが、流石に外を歩いているときまでは保証できぬ」


それを聞いていたアレクシアが、


「・・・成る程、安全の意味でも眷属になるのは悪く無さそうですね。怖く無いと言えば嘘になりますが」


その気があるのなら、誘ってみても良いかも知れない。

エルクは、アレクシアにエルクの理論の説明をする。


「成る程・・・その理論は正しそうです。そして、私の意思が残るのは、私にとっても都合が良いですね。是非私を眷属に加えて頂けますか?」


「貴方が良いのなら、是非御願いしたい。眷属になるにあたり、何か希望はあるかな?」


「・・・無いですね。強い力、安全を得られ、魔界に行く・・・しかも、王族の立場も貰えるとの事。これ以上の望みは有りません」


「分かった、ではアレクシア、貴方をファーイーストの王エルクの眷属とする」


アレクシアの細い首筋に牙を突き立てる。


「う・・・」


艶めかしい声を上げるアレクシア。

くたっと、その体をエルクに預けてくる。


美味い!

これは・・・幾億、幾兆もの知識・・・本が、時計が、幻視される。

非常に、美味い。

無限に飲める味ではあるが、アレクシアの華奢な体では、血を多くは提供出来ないだろう。

早めに牙を離すと、その傷を舐め、傷を塞ぐ。


「はあ・・・はあ・・・っ」


体の中を闇の力が暴れ回っているのだ。

そっと抱きしめてやる。

アレクシアとの間に経路が繋がるのが分かる。

良質の魔力が流れ込んでいたが、その量は決して多く無かった。

それが、吸血鬼化する事で、魔力容量が飛躍的に上がっているようだ。


ややあって、ようやくアレクシアが落ち着いたようだ。

目を開け、エルクを見て、


「これから宜しく御願いします、エルク様。体が嘘のように軽い。正に生まれ変わりました」


まだ魔力制御が出来ていないらしく、魔力が漏れ出ている。

恐らく、生来の魔力量がそう多くは無かったのだろう。

それが闇の力との相性か、アンリを超える魔力を秘めている。

魔力量だけでならパラスの方が多いが、パラスは自分では魔法を使えない。


「宜しく、アレクシア」


そっと口づけをする。

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