第16話 奪われざる自由

ゴブリンって仲間割れするのだろうか。

襲撃されて混乱したのだろうか。

あまり聞かないが・・・エルクは思いつつ、そちらに向かう。


生き残りのゴブリンを倒しつつ、残りの女性を救助。

結局かなりの数の女性が囚われていた。


「少し前から山で行方不明になる事があったのですが・・・ゴブリンだとは気付いていませんでした。冒険者も含まれているのと、後は麓に私達の村以外にも3つ集落があるので、そちらの村の女性も含まれていると思います」


「ここまで巨大な集落は初めて見たな。恐らく、目撃者を徹底的に排除する手口が鮮やかだったのだろう。稀にそういう知恵者が現れる。逃げて報告した奴のお手柄だな」


「はい・・・本当にそうですね・・・」


セリアが頷く。


再びアンリに乗り、村に戻る。


「エルク様、有り難うございました。この御礼は必ず」


女性達を広場に下ろし、礼を言うセリアを残し、エルクとアンリは宿屋に戻った。

・・・アンリの人化解除、見た住民多いだろうなあ。


--


夜明け前。

再度の来訪者。


来たのは・・・セリア。


エルクはゆっくりと身を起こす。


セリアが扉をノックする。


「入って構わない」


エルクが言うと、セリアが扉から入って来る。

セリアは、覚悟を決めたような顔をしている。


「さっきぶりだね、セリア」


「はい、エルクさん・・・いえ、エルク様」


セリアは、じっとエルクを見ると、


「支払いの件・・・なのですが・・・」


セリアが、何かの決心を確かめるように、息を整える。

蛍光石は売却益の一部を回すとしても、ゴブリンの集落破壊と多数の救助は、相当な額だろう。

本来は国やギルドが賞金を出すが、その認定前に動いた。

そうなれば、莫大な報酬を村で、いや、セリア個人で払う必要がある。

エルクは言う。


「うむ。ある時払いの催促なし、で構わないよ」


「えっ」


セリアとアンリの声がハモる。

別にゴブリン退治、エルクは苦労した訳ではない。

聖戦が始まったら、この村に遊びには来れないが・・・終わればまた来れる。

セリアが何十年生きるか分からないが、その間には何とかするだろう。

踏み倒すような性格には見えないし、戦火で死んだら・・・手向けとでも思う事にする。

それがエルクの考えだ。


「あの・・・」


セリアが絞り出すように言う。


「どうした?」


エルクが促すと、


「私を要求・・・とか、されないのでしょうか?一応、まだ未経験で・・・」


ああ。

ようやくエルクは、セリアの言いたい事を理解した。

それでさっきから挙動不審だったのか。


「なるほど。そういう事なら、是非」


エルクは、セリアの肩に優しく手を乗せる。

セリアはやや体を硬くするも、抵抗はしない。

顔を真っ赤にして、エルクを見る。

少し体が震えている。


「大丈夫。未経験でも何とかなると思う。うちの城で働きたいって事だろう。確かに、それなりの俸給は出せる。炊事が得意なら調理、掃除が得意なら掃除婦・・・希望の職は・・・あれ?」


セリアが真顔になっている。

そして横目で見ると、アンリが呆れたように半眼になっている。

・・・?

エルクは戸惑う。

何かおかしいところがあっただろうか。

ああ。


「すまない。ゴブリンの件、報酬を先に決めようか。では、半年城で働き、その分の俸給は返上して貰う。これでどうかな?」


エルクは補足するが、まだ微妙な空気が漂っている。


「えっと・・・私が王、と言うのを言ってなかった事か・・・後は・・・開始時期は何時でも構わないが、遅くても1年以内、聖戦が始まる前としてくれ。お勧めは、早く始めて聖戦が終わる前に帰ることだ」


・・・?

エルクは困惑する。

何か漏れているのだろうか。


「分かりました。炊事が得意なので、調理場に入らせて下さい。時期は、村の業務整理しますので、1週間程頂きたいのと、エルク様の国ヘ行く際は同行をお願いします」


セリアがまだ戸惑った印象で言う。


「分かった」


同じ城で住んでいれば、眷属に誘う機会も・・・それは都合が良過ぎるか。


セリアが退室しかけ、数歩進み・・・再度エルクの方を向く。


「あの・・・」


「まだ、何か?」


「私を・・・エルク様の眷属にして下さい」

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