第9話 最高の笑顔
山を降り、街道から外れた草原を歩く。
草陰に隠れ、ミーミルの斥候をやり過ごす。
出来れば、ミーミルにはエルクが外に出ていることを気付かれたくない。
ファーイーストに攻めてくる可能性があるし、帰還時に邪魔される可能性もある。
「行きましたね」
ひょこ、っと、アンリが立ち上がる。
「ああ、行こうか・・・今ファーイーストが攻められては都合が悪いからな」
エルクがそう言うと、
「リア様とジャンヌ様なら余裕だと思いますけどねー」
アンリが言う。
その信頼はリアとジャンヌにも及ぶの?!
「・・・会った事ないんだよね?」
「え・・・あ、はい、まだ会ってないですね」
目を泳がせるアンリ。
可愛いとは思うんだけど・・・エルクは複雑な気分だ。
「このまま行けば・・・砦まであと2日ってところですか」
「砦?!何時の間に砦が?!」
「あ、要塞でしたね」
「要塞?!更に大きくなったのか?!」
この先には小さな村があるだけのはず・・・その先には、砦があるけど。
そっちの事だろうか。
でも要塞ではない。
「あ、すみません。まだ村でした」
・・・何だろう・・・凄く気になるが、詮索しない約束だ。
ニコニコするアンリがちょっと小憎たらしくもある。
ぽふ。
ちょっと強めに抱きしめてやる事にした。
--
エルク達は、村に着いた。
この村は魔界に隣接する地だ。
常に魔族の脅威に晒されている。
魔族の刺激を避ける為、大規模な兵も派遣し辛い。
周辺に魔物も多い。
魔物への対処は冒険者に頼る形となり、腕試しを兼ね、ちらほら冒険者が来る。
その報酬は村からの持ち出しとなるので、村は貧しい。
村の居住区は、周囲を堀と柵で覆っている。
その外に田畑がある。
水は近くの池や川を利用でき、困っていないようだ。
エルクは立看板を見て、
「ラムダ村か・・・とりあえずここで眷属探しと、日用品を買い足すか」
「この村名前あったの?!」
アンリが驚きの声を上げる。
驚く所か?!
相変わらず、不思議な所に喰い付く嫁だ・・・エルクは思う。
「さて、何かに困っている女性を探したい。出来るだけ身寄りが無い女性が良い」
困っている所を助ければ、エルクに惚れる可能性がある。
身寄りがなければ、それだけエルクを頼ってくれる。
エルクが言うと、アンリは頷く。
「分かります。眷属探しですよね」
アンリが微笑み、
「お勧めは、村長の娘です」
エルクに、最高の笑顔で告げる。
########
2018.3.17
アンリの台詞が敬称ではなかったのを修正。
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