第8話 上機嫌
エルクはアンリをそっと抱き寄せ、
「アンリには感謝しているよ。当初の目的だった魔力も、一気に目標以上に上げる事が出来た。既に旅の目的は達成したと言っても過言ではない」
アンリがふふっと笑い、
「エルク様、気が早いですよ。まだ魔力は足りません。これでは統一なんて出来ませんよ」
本当に可愛く笑う、エルクはそう思う。
それにしても・・・統一?
「魔界の統一・・・そんな大それた望みは持っていないよ。・・・申し訳ないけどね」
魔界の首都ミーミル。
都市の規模は巨大、多種族により構成され、軍備も強い。
そして何より・・・過去より受け継がれる眷属達が封じられた、霊廟。
まさに難攻不落の名に相応しい都市だ。
聖戦が始まった際、魔界から魔王が選出されるが・・・慣例として、ミーミルの王が魔王の座に着いている。
それは当然の事だ。
アンリは、きょとん、として言う。
「エルク様何を言っておられるのですか?魔界ではなく、大陸の統一ですよ?」
「ぶっ」
エルクは思わず目を見開く。
アンリは何を言っているのだ・・・?
「大陸って・・・今の魔界と聖界の戦力バランスは知っているだろう?」
魔界と聖界の争いは、柱の奪い合い、である。
14本ある柱を、それぞれが制すれば・・・それぞれが奉ずる神の支配柱となり、その民は恩恵を得る。
そしてその支配する柱の数は・・・魔界が2に対し、聖界が12。
もうこうなっては、逆転とかそういうレベルではない。
後何回の聖戦を、魔界が持ちこたえるか、そういう話である。
幸い、魔都ミーミルは強固だ。
また、今期の魔王候補、ミーミルの王フェオドールは強い。
今回の聖戦で落とされる事はないだろう。
そして、ミーミルが落とされない限り、ファーイーストは安泰なのだ。
「やー、意外といけますよ?」
自信たっぷりに言うアンリ。
それだけ自分が信頼されているという事だろうか。
アンリを強く抱き寄せる。
「有り難う、信頼を寄せてくれるのは嬉しいよ」
現実はどうであれ、悪い気はしない。
エルクはアンリにそっと唇を重ねた。
****
朝。
目を開けると、アンリがじっとエルクの顔を見ていた。
アンリがすっと笑顔になる。
「おはよう、アンリ」
エルクはアンリに軽くキスをすると、朝の支度を始める。
「今日は一気に山を降りてしまうよ」
「はい、エルク様」
アンリが笑みを浮かべて答える。
今朝は昨日と違って機嫌がいいなあ、とエルクは思う。
軽く朝食を済ませると、やや早足で行軍を開始した。
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