第3話 絶体絶命
エルクは、聖界に向かう。
エルク達魔族を治めるのが魔神、住まう地が魔界。
人間を治めるのが聖神、住まう地が聖界。
エルクの治める国、ファーイーストと、聖界の間には、魔界の首都ミーミルが存在する。
聖界からの人間の侵攻はミーミルが受け止める形となるので、ファーイーストは直接人間の脅威にはさらされない。
ファーイーストが人間との戦いにおいて平和を謳歌できる理由だ。
一方で、ファーイーストとミーミルは友好国ではない。
ミーミルからファーイーストへの侵攻は日常茶飯事だ。
ミーミルを通る訳には行かず、平地は完全にミーミルが塞いでいるので・・・迂回するには両脇にそびえる霊峰を通るしかない。
道は険しく魔物も多い為、エルク程の実力者が単独踏破するならともかく、大規模な兵を移動させたりはできない。
夜は野宿。
エルクは、野営技術も問題ない。
火を起こし、獲った獲物を焼く。
霊峰を踏破に後3日、その後は平地を隠れ進み、聖界まで都合7日といったところだろうか。
そして2日目。
エルクはそれ、に出会った。
長い耳、純白の髪、紫の瞳・・・
美しい。
だが、それは危険な美しさだ。
力を完全に制御下に置いてある為、溢れては見えないが・・・その纏う力は、一体で大軍に匹敵する。
何故ここに居るのか?!
エルクは心の中で叫んだ。
聖獣。
それがその存在の名。
聖界の主力は勿論、人間だ。
だが、それ以外の種族も存在する。
その内、最も危険なのが聖獣だ。
知恵ある魔獣。
その力は圧倒的で、聖戦の際に数多の魔族がその手で殺された。
一方で、人間が道を踏み外せばそれを罰し、聖神すらその例外ではないと聞く。
何故ここに居るのか。
聖獣は、聖獣の里から出ない。
それは、聖獣が決めたルール。
聖獣が里から出るのは、その力を示す時、のみ。
何故ここに居るのか。
ここは魔界。
聖の眷属が居ていい場所ではない。
しかも、この霊峰は迷路のように入り組んでいる。
この道はエルクの国ファーイーストに伝わる秘伝の道。
何故ここに居るのか。
唯一つ分かる事は、エルクは死ぬ。
見られて見逃す理由は無いだろうし、リアとジャンヌがいればともかく、単独で勝てる訳がない。
エルクは魔法が使えないのだ。
手持ちの魔力結晶全てを溶かしても、かすり傷も負わないだろう。
聖獣は、エルクの前にゆっくりと近づき・・・跪き、頭を垂れる。
「エルク様、ご機嫌麗しゅうございます」
・・・?!
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