第2話 魔力ゼロ

反面、エルクは強い、とは言えない。

魔力ゼロ。

先天的に、体内に魔力を蓄積することが出来ない体質なのだ。

この致命的な体質は、永いエルクの王家でも類を見ない欠点だ。

だが、武術はそれなりに鍛えているので、人間の領域ではそれなりに戦えるとエルクは楽観している。


エルクは、全く魔法が使えない訳ではない。

魔力結晶を使ったり、大気のマナを直接利用したり、他者から魔力を貰ったり。

そういった物で行使は可能だ。

しかし、大気のマナを利用する場合は発動速度が致命的に遅くなる為、戦闘には向かない。


エルクがリア、ジャンヌと共に朝食をとり、エルクは部屋に戻り出発の準備をする。

支度を整え、リアとジャンヌが待つ広間に着くと、部下が呼び止める。


「エルク様、誠に申し訳ありません。出立前に御願いしたい事が御座います」


「御願い・・・ああ、水かな?」


エルクが思い当たる。


「左様で御座います」


「構わないよ」


エルクは部下の先導で、溜め池に着く。

確かにかなりかさが減っている。


「日照り続きだったからねえ」


ジャンヌがうんうん、と頷きながら言う。


「ジャンヌ」


エルクが呼びかけると、


「うん、エルク、どうぞ」


ジャンヌが首を差し出す。

エルクがジャンヌの首筋に牙を立てる。


「ん・・・」


ジャンヌが声を漏らす。

七色の輝きをその体に宿したような、万能感がエルクの体を満たす。

吸血による魔力増強は、飛躍的な効果をもたらすが・・・ジャンヌの血は格別の効果を持つ、エルクはそんな気がしている。


ジャンヌの首筋から牙を抜き、軽く舐めると、ジャンヌの首筋の傷が塞がる。


「有り難うジャンヌ」


ジャンヌに礼を言い、再び溜め池の方を向く。

そして。


「水よ、在れ」


世界に対する強制。

緻密、かつ、暴力的なまでに強力な魔力は、魔法を構成。

世界の理を歪ませ、上空に水が出現。

そのまま落下し、あっという間に大きな溜め池からは水が溢れ出した。


エルクは、魔力こそ体内に貯められないものの・・・その魔法構成能力は異常と言えた。

今やった事だけでも、農業生産が保証されるという事であり、世界のバランスが崩れかねない事だ。

無論それだけではない。

各種禁呪も修めており、外部には秘しているが、敵国の遠征をエルクの魔法で撃退した事は数多い。


「流石です、お兄様」


リアがうっとりして言う。


「ほとんどの国民は知らない、謎の溜め池の秘密。何度見ても凄いなあ」


ジャンヌが惚れ惚れして言う。


「一人でこれができるなら、もう少し自信も持てるのだけどね」


エルクが苦笑する。


「じゃあ、行ってくるよ、リア、ジャンヌ」


ジャンヌに口づけをする。


「はい、行ってらっしゃいませ、お兄様」


「早く帰ってきてね、エルク」


こうして、エルクは二人と部下に見送られ、人間の領土へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る