第24話  黒い形~破壊人格

 簡単に言えば面白くない。

 予想より変化がなく、イメージより状況は悪化している。

 馬鹿なのか。何なんだ、あのソウタとか言う男は。

 変人なのか、それとも漫画やアニメが好き過ぎて現実と幻想が入り混じった頭になっているのか。腹が立つ。面白くない。

 普通は、そもそも多重人格という病気自体に疑問を持つ。演技や嘘なんじゃないかと疑う。

 そして万が一、信じたとしても嫌悪感を持つ。さっきまで話していた人間の性格や顔つき、口調が突然変わるのだ。

 受け入れられる訳がない。人は理解出来ないものに恐怖を感じる。幽霊や変質者等、それらに対して人は距離を置きたがる。一種の防衛本能みたいなものだ。それが常識の範囲のはずなのに。

 面白くない。本当に面白くない。

 意味不明だ。私にとってはソウタが変質者に近い。

 アイラを他の人格に邪魔させないよう密かに外に出し、ソウタと会わせ、不審感を与えた。

 ユキには文字や声で人格への不満を募らせた。それなのにソウタはアヤの人格を知り、人格別に対応し、ユキとアイラの心は徐々に開き始めている。

 何なのだ。

 こんなの、想像すらしていなかった。

 このままだと人格達が勘違いをしてしまう。

 例えばホタルとかは統合について前向きになりそうだ。一時の薄っぺらい紙みたいな希望にすがり、その裏にこびりついている真っ黒い絶望に気付きもしないで。

 仮に統合し、生き延びた所でアヤは救われない。アヤは現実を全て否定した。自ら死ねない状況だったから内界を作り、生きながら死ぬ道を選んだ。アヤが心から望んでいるのは終わり。無だ。

 あの辛い過去から解放されるのを望んでいる。死ぬ為の準備を。踏み出す為の後押しを待っている。だから私がいる。

 私の感情に反応し、黒いワンピースの裾が揺れた。ワンピースの色も濃くなり、新月の夜の色になる。奥歯を鳴らす。虚空を睨む。させない。と呟く。ホタルの描く未来にはさせない。私が必ずアヤを救う。それが私の役割だ。

 虚空に向けて手を伸ばす。待っていてね。そう囁く。

 必ずチャンスはある。僅かな歪みはきっと出来る。そこを引き裂き、広げ、浅はかな希望を抱けないように壊す。

 体が震える。肩が上下する。伸ばしていた手を握る。何かを握り潰すように掌に指を食い込ませ、私は笑った。

 最期にアヤを救えるのは私だけだ。

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