第18話 空~ホタル


 地面の上に座り、足を伸ばす。ほどよく長い柔らかい草が肌に触れて心地いい。

 上を見れば晴れた空だ。内界の外の天気と一緒だ。

 内界の家の外にいた。白く塗装された内界の家の外には草原が広がっていて草木も生えてる。

 人によっては内界に街があるらしいがアヤの内界にはない。家と自然だけだ。

 なぜ、それだけなのか分からない。予想は出来る。確信はない。アヤとは全然会えていない。

 体を草の上に倒す。

 久しぶりに起きて、外に出て、疲れているはずなのに眠れなかった。

 多重人格の事を他人に話した。正しかったか自信はない。間違った事をした自覚もない。ただ落ち着かない。

 頭の横に誰かが立っていた。音もなく、羽が落ちるように静かに。

 黒いワンピースの裾が視界の端に映る。くすくす笑う音が頭上から降ってきた。

「ホタル、こんな場所でどうしたの? サボリ? 逃げてきたの?」

「ゴロゴロしているだけですよ」

「こんな状態なのに?」

 笑う。頷く。

「そうですね」

「ホタルも破壊になりたいの?」

 息を短く吐く。

 笑う黒い髪の女の子を見上げる。

「私は間違っていました?」

「正しいと思っているの?」

「分かりません」

「無責任だね」

 楽しそうに、くすくす笑う。

「隠すには難しい場面に見えました」

「そうかな?」

「真剣に考えているように見えました」

「そうかな?」

 同じ言葉、同じ口調。

 私も同じ質問をもう一度する。

「私は間違っていました?」

「さぁ?」

 流された。

「私は」

 後に続く言葉を考え、飲み込み、黙る。

 風が吹く。髪が揺れる。草が撫でられる。

「ホタルは楽になりたかっただけじゃないの?」

 ささやかれた。

 体を起こす。言い返そうとし、顔を動かす。破壊人格の姿は消えていた。風に溶けたのかと思い、周りを見回す。相変わらずの穏やかな景色が私を囲んでいた。再び体を横にする。

 目を閉じる。今度は誰も傍に来なかった。

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