第14話 理解と混乱の狭間~ソウタ
「俺はソウタ」そう答えるとアヤは「そうですか」と頷き、口の端を僅かに上げ微笑んだ。厚いクッションを連想させる空気に呑まれそうになる。アヤに似合わない空気だ。
「ソウタ君、さっきは、すみませんでした」謝られた。
「な、何が?」
「気絶した時に運んでくれましたよね。このベンチに」
「な」とだけ発音しアヤを見る。急に面と向かってお礼を言われ、顔の温度が上昇した。警戒と恥ずかしさで顎の動きが鈍くなる。
何故、今それを?の発言はアヤの「そのまま放っておいても良かったんですよ」に遮られた。
「……放っておくって。そんなの無理だよ」
「人助けが好きだからですか?」
「好きというか」
「というか?」
「泣いて気絶したんだ。無視はできないよ」
アヤが唇に手を当て、俺を観察する目つきで見ている。
「泣いて気絶したとしても、他人ですよ」
俺は首を振る。
「泣いていたんだ。小さい子みたいに。そんなに怖かったのか?」
「アイラは怖かったんじゃないですか」
「アイラって」
「あの――」
呼びかけられた。俺の喉が勝手に動き、唾を飲み込んだ。
「アヤの事が好きですか?」
聞かれた言葉を反芻する。好き、隙、すき。変換しても合っている言葉が出てこない。聞き間違いだと思った。アヤがもう一度聞いてくる。
「アヤが好きですか?」
聞き間違いじゃなかった。頬が燃える。「え、いや、え?」と取り乱す。
「好きなら話があります。というよりもお願いしたい事があります」
「お願い?」
「私の話を最後まで聞いて欲しいんです」
「最後まで?」
「はい。アヤを知る為と言いますか……アヤを理解する為と言った方がいいかも知れません」
「え」
脳が停止しそうになる。疑問が解消されず、どんどん積み上がっていき、ちょっとした塔になっている。簡単な揺さぶりで倒れ、疑問の塔に押し潰されそうな錯覚を覚える。
アヤは俺の様子を気にせずに話し続ける。
「迷うなら止めた方がいいです。余計にアヤを傷つけるだけです。未消化でしょうが、このままお互い家に帰って、明日から普通に学校生活を送る。そういう選択もあります」
口から煙が出そうだ。白旗が無いか、無意識に周囲を見回しアヤの視線に射抜かれる。
ふざけているようでも、冗談だよと言いそうな雰囲気ではない。真剣だ。
上を向く。空を眺め、考えをまとめる。アヤの態度や言葉を振り返り、何とか自分なりに分かろうとする。
無理だった。未消化どころか口にさえ入れてない状態だ。せめて料理名くらいは知りたい。
空の色が濃い。夜の匂いが強くなっている。
賑やかと寂しさが混じった空気が肌に触れる。
呼吸を吐く。アヤに向き直る。「分からない」と正直に言った。「でも理解したい」とも続けて言う。
言った瞬間、アヤが何故か小さく笑ったように見えた。「分かりました」と淡々と言う。
「少し長く話します。よろしくお願いします」
頭を下げられる。
「いいよ」
見慣れたアヤの頭頂部を見て、俺は今、運命の決断をしたのかな。と何となく思った。
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