四神祭に参加してみた 其の一

「四神祭、それはただの祭りにあらず。それは強者達のプライドを賭けた、その年の代表地区を決める戦い。代表地区に選ばれるというのは大変な名誉であり、他地区冒険者の指揮権を与えられるというもの。それを成す為、呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。我々|KKK(トリプルケー)にどうしても力を貸して欲しいという依頼により、今回はその四神祭に参加することが決定いたしました。というわけで今俺達は、コロッセオと呼ばれる何にもない広場に来ています。パチパチー」


 カメラに向かってビシッと決める。

 昨日書いた台詞のメモを暗記してきてよかったと、心から思う。

 なんせ今回こそ俺がYouTuberとして名を上げるため、気合いがバリンバリンの全開だからだ。


「なんか知らんがやる気は十分みたいだな、頼りにしてるぜ」


 そう言って後ろから声をかけてきた人物こそ、二日前冒険者組合の応接室に現れた男で、今回の依頼人でもあるボルギュスである。


「さて今回の依頼人が登場しました。実はこの人先日冒険者組合の前で俺達のことを通せんぼした人物その人なんですが、飛竜討伐の際に俺達の切り札|MCB(メントスコーラバクダン)の威力をみて今回依頼してきたというわけです」


「いやぁあの時はピリピリしてたもんですまんかったな。こんなひょろっこいなりで冒険者組合に来られたもんで怒鳴ったが、まさか魔導師とは思いもよらなんだ」


 実際飛竜討伐の後は歓迎の宴を開いて、大いに労を労ってもらっている。

 顔は強面だしごつい大男だが、話してみると気さくで案外いい人だった。


「それじゃあ、この四神祭について是非説明をお願いします」


「お、そうだな。お前達は流れて来てまだこの都市に来たばかりでよく知らないんだったな。えーっと」


 という、設定にしてある。


「あっ、こっちのカメラ……じゃなくてメガネの彼が右手に持ってるやつに話してもらえますか」


「ん?まぁ構わんが。四神祭ってのはあれだ。俺達の住む七番街の東西南北に別れた地区で戦うっていう恒例行事でな。昔七番街で協力してダンジョン攻略しろって言われた時に争ってたらよ、神様の御一人が"祭りみたいで面白いな、来年もまたやろう"と仰ってできたもんだ」


「へぇ、それでそれで」


「ん?これで終わりだが」


「……。」


 相変わらず神様やらダンジョンやら謎が多い異世界である。


「神様ってのは実在するのか?」


 しかし業を煮やしたなかつが俺の代わりに、説明を求める。

 こういう時自分一人じゃなくてよかったと心底思う。


「そりゃおられるだろ?実在して加護を与えてくれるから、俺達人は神様を崇めるんだろ」


 俺達の世界とは異なる考えだが、まぁ実在して神のみわざとやらを見せてもらえば、ほとんど無宗教みたいな俺でも崇めるに違いない。

 俺達をこの世界に呼んだあの神を崇めるとは限らないが。


「おっと、そろそろ始まるぞ。開祭の儀があるついて来てくれ。連れの二人はあっちな」


 コロッセオとは名ばかりの何もない広大な広場の中央に人が集まりだす。

 その周りにはたくさんのギャラリー、ボルギュスはそのギャラリーの辺りを指差しなかつとおたを誘導した。


 ちなみにコロッセオで競うと言っても、もちろん実際剣や拳で殴り合うわけじゃないと、先日冒険者組合で聞いているので不安はない。

 東西南北それぞれにある冒険者組合に所属する冒険者の代表五名ずつで、毎年異なる競技をして勝てばいい。

 俺の知ってる情報はそれだけである。

 だが、異世界人と未知の競技で戦うなんて、YouTubeの再生数がエグいことになるのは必須と確信している。


「ほれ、あちらにおられるのがこの辺りを統治しておられる神様達だ」


 ボルギュスの視線の先には、学校の運動会の来賓席をゴテゴテに派手にしたような席があり。

 それはもう美し過ぎる美男美女が座っていた。

 なんかこう眩いばかりとしか形容できない、まるで絵画の一枚のようだ。


 その中の一人の女神が居並ぶ冒険者達の前に進み出て微笑んだ。


「愛しき人間の子らよ。今回も我等を楽しませてくれることを期待している。長話も退屈だろうて、早速開祭としよう」


「「「おぉぉぉおおお!!!」」」

「おっ、おーーー」


 一瞬遅れて冒険者達の雄叫びに合わせて叫んでみたが、俺の声なんて一瞬でかき消され、自分の声さえ聞こえないほどだった。

 しかし別の男神が女神と代わりに進み出て来たことで、雄叫びは一斉に止んだ。


「それでは第一種目を発表する。第一種目はゴルフ!」


「えっ、ゴルフ?」


 シーンとした空間で俺の声が妙に響いた。

 周囲の視線が一気に集まる。


「そこの人間。ゴルフという異界の競技を知っておるのか?」


 尋ねてきたのは先程種目を発表した男神。

 俺はすぐさま頭を捻り、結論を出す。

 たぶん、この世界の誰も知らないゴルフを第一種目にした、つまり俺がゴルフを知ってる異界の人間と知られない方が有利、と。


「いえ、全く知りません。ゴルフ?何それ美味しいんですか?」


「ふははは、食べ物ではないぞ。まぁ知らぬのも無理はない。我も最近全英オープンなるものを見て知ったのだからな。愛しき人間の子らよ、一旦そなたらの陣地に戻り代表者を一人出せ。時間は30分やる。ゴルフの説明は代表者が決まってからしよう」


 一旦場が解散し、それぞれの陣地という名のベンチに戻った。

 そしてベンチに座るとすぐ、代表者を出すための作戦会議があちこちで始まった。

 もちろんここ、東側代表の青龍チームでも白熱した会議が始まる。


「さて、青龍の代表は誰にする。初戦だ絶対に落とせない」


「まずはゴルフという競技について考えるべきだな。数少ないが先程聞いた話から儂が推測した内容を話させてもらおう。まずぜんえいおーぷんというのは、前衛職の人間が競う戦いで間違いない。そして次は勘だが、ごるふとはルフを守護するというもの、つまりルフと呼ばれる何かを護る競技ではないか」


 口火を切ったリーダーのボルギュスに続き、したり顔で迷推理を披露するコルトン。

 コルトンはチーム最年長で何度も四神祭の出場があるらしいので、その言葉に耳を傾けている者は少なくない。というか俺以外全員感心して頷いているほど。

 ボルギュス曰く、競技名だけ聞いてどんなものか予想すること含め神様達は期待しているとのことだが。

 ただ俺からしてみれば、見当違いな予想を立てて乗り込んできた人間を見て、神様みんなで小馬鹿にしながら見てるのではないかと勘ぐってしまう。


「ちょっといいっすか?」


「どうしたケン?何か気付いたことでも」


「ほーう、話してみろ。爆裂の魔法を直で見たボルギュスとは違い、私達はまだお前の実力を知らない。是非爆裂の魔導師殿のご高説を賜りたいものだね」


 ボルギュス以外の人があまり話しかけてこなかったのは、単に緊張してたからと思っていた。

 しかしどうやら俺を認めていなかったからだと今更気付き、小さな衝撃を受ける。

 だがしかし、今回に限って俺の実力を見せつけ、彼等に俺を認めさせることが簡単にできる。

 なんせゴルフだ、中学まで野球をやっていた俺なら容易いに決まってる。これでも三番サードでキャプテンをやっていたのだ。


「第一種目は俺が出ますんで、サクッとやっちゃりますよ。なかつ、悪いけど俺の部屋から"アレ"持ってきてよア・レ」


 ゴルフと聞いた瞬間思い浮かんだ、例のアレ。

 アレがあれば間違いなく圧勝である。


「あぁ、アレな。でも俺はパス、カメラあるし」


「いやー、某も走るのはちょっと。一番速いケン氏どうぞ」


 すげなく二人に断られ、俺は急ぎ空き地の扉へと走る。

 四神祭の会場は時計回りにぐるぐると毎年変わるらしく、今回はたまたま俺達の拠点のある東側だったため、あの空き地は走ればさほど遠くない位置にあるのは幸いだった。

 とは言っても、帰ってくる頃には右脇腹の激痛で数分悶えるには十分過ぎる距離だったが。


「なんとも見慣れぬ変な棒を持って何する気だ?魔法の杖には見えないし、まさかそんなものでゴルフが出来ると思ってるわけじゃなかろうな」


 まさかゴルフクラブを持って来てそんな見当違いなお叱りを受けることになろうとは思いもよらなかったが、買うだけ買ってボツ案になったこいつの出番がこんなところで回ってくるとも全く思いもよらなかった。


「甘いなコルトンさんよぉ。悪いがこの競技、俺の圧勝が決定した」


「大した自信だ。さてはお主、ゴルフというものが何か察しがついているということだな」


「まぁ、そんなかんじっす。これがあればブッチギリですかね」


 なかつに向かって、右手に持った棒を突き出す。


「これぞかの有名な、某人気YouTuberのH氏がへし折り炎上した、某ゴルフメーカーロジャー○ングのとってもしなるゴルフクラブであります。もちろん私はちゃんとした本来の目的使うであります」


 圧倒的な勝利とともに止まらない再生数を記録していくであろう光景が、今俺の瞼の裏ではっきりと色付いた瞬間だった。

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