新たな依頼を探してみた 其の二
ショートカットの美人受付嬢の前まで来ると、その女性はにこやかに微笑んだ。
歳はおそらく俺達と同じくらいで20歳を少し過ぎたくらいだろう。
今まで見た受付嬢でもトップ3に入る美女の笑顔にドギマギしつつ、まずは依頼内容の確認をするべく近付いた。
「いらっしゃいませ。本日担当させていただきます、ツェーレと申します」
見た目だけじゃなく声もいい。
いきなり褒めて変な人だと思われても嫌だし、どうせぎこちなく褒めるであろうことが目に見えているのでやめておく。
自分不器用なもんで。
「すいません、さっき届いた物なんですが。これが冒険者組合の登録証でいいんですよね?」
「はい、そうですよ。それで首に下げているのが冒険者の階級を示す証となっています。……あのぉ、組合に登録した際、必ず説明があると思うのですがお聞きでなかったですか?」
たぶんこれを送ってきた自称神が説明とかを聞いたに違いない。
不親切なことにどれが何という説明がないことを除けば、面倒な手続きを済ませてくれたことに感謝してやらなくもない。
「いやー、なんかド忘れしちゃっただけなんで、はいすいません。それで僕らにミッション……というか依頼とか来てるはずなんすけど」
「依頼……ですか?」
はてと受付嬢は考え込む、対応が遅いという程ではないにしろ。おそらくこの受付嬢はベテランではないということだけはわかった。
顎に指を当てふーんと唸る姿が非常に可愛らしく、これなら仕事が遅くとも他の冒険者をイライラさせることはないに違いない。
というかずっと見てられる、もやはこれを動画にしてYouTubeにアップしても再生数稼げるのでは?というほどだ。
しばらくして受付嬢はマニュアルを読み上げるように喋り出した。
「七番街で個人を指名しての依頼というのは聞いたことがないですね。通常あちらにあるクエストボードに書かれた依頼に対し、受ける際こちらにて申請していただくという形になっておりますので。……で、でも万が一ということもあるかもしれませんので念のため確認してきますね。所属ファミリアをお教えくださいますか?」
「え、ファミリア?……リドネル冒険者組合の冒険者ケンですけど」
「いえ、そうではなくて。どちらの主神様を信仰するファミリアですか?」
「えーっと、特に宗教とかは入ってませんが……」
「つまり所属ファミリアは無しということでしょうか」
「……たぶん、はい」
「はぁ……とにかく確認して参ります。ケン様ですね。少々お待ちを」
そう言って困った表情の受付嬢はパタパタと床を鳴らし奥へと消えて行った。
「七番街やらファミリアやら主神やら、よくわからない専門用語ばかりですけど、その辺はおいおい調べるということで楽しみが一つ増えました。まぁ話は変わるけど、ああいう感じの子っていいよねぇ。新人だからこそかもしれんけど、マニュアル通りってだけでなく親切な対応してくれるのって。依頼とか来てなくてももう満足したわ、帰ってもいいくらい」
「相変わらず面食いだな」
「ちっ、あと十歳若くて二次元だったら」
「やめろって。あとで音声消しとけよ」
珍しく俺が二人に叱責したところで、受付嬢が再びパタパタと足音を鳴らし帰ってくる。
それも今回は少し慌てたように、若干小走りとなっていた。
「なんか手に持ってる」
「あっ、ほんとだ」
数枚束ねた紙を手と胸で包むようにして駆けてきて、それを机の上に叩きつけるように置いた。
「あっ、あの!もしかして爆裂の魔導師のケン様だったりしますか?」
興奮気味の受付嬢が前のめりになりながら尋ねられ、俺はさも当然かのように答えてみせる。
「はい、そうです。私が爆裂の魔導師ケンですけど何か?」
「そうなんですか⁉︎大変失礼いたしました。それで……そのぉ、そちらはもしや爆裂魔法の道具か何かで?」
受付嬢の瞳はチラチラとなかつの持つビデオカメラへと向いている。
先程とは違いおどおどしている様子からして、自分に爆裂魔法が向けられているのかと怯えているようにも見えた。
であればいつものボケで笑いを誘うのが俺の務めだろう。
「違います。これはスカウターです。これであなたの戦闘力を図っていました。ちなみにあなたの戦闘力は5です」
受付嬢のキョトンとした顔ですぐ察したわけだが、異世界でD○ネタが通じるはずもなかった。
「5?そうですね、私はただの受付ですから。ふふふ」
なんとか彼女が笑ってくれたが、取り繕った作り笑いだったのが恥ずかしさを増してくれた。
「ケン氏、確か武装した兵一人が数値1じゃね。素手で武装した兵士5人分と超猛者じゃね」
「そうなのかおた?まぁ、おたが言うならそうなのか」
「あと、今の子にD○ネタは少し辛くね。できれば今期やってる深夜アニメネタが好ましす」
大人から子供まで楽しめるチャンネルが俺のモットーだが、やはり中学生くらいがターゲットの主流。
今の子供達に合わせるため、さらなる研究が必要なようだ。
「あっ、すいません。それで依頼は来てました?」
机の上に並んだ紙の束を見れば依頼が来ていることは一目瞭然。
俺は話を元に戻し、机の上の紙へと視線を落とした。
あまり来ないという個人への依頼がこんなに来たということは嬉しい誤算だ。
現実世界で有名になるのは失敗したが、こちらでは少しばかり名が広まったということだろう。
「大変失礼いたしました。依頼の件なんですが、七件ほど届いておりました。どうなさいますか?」
どうと言われてもさっぱりわからないので、おそらく新人だろうとはいえプロに任せるのがベストだ。
ちなみに携帯屋なんかで全部任せるというと、勝手に説明された挙句いらないオプション全乗せになるので、そういう時だけは受付嬢には任せないが今回は別である。
「じゃあ、ツェーレさんが選んでくれます?なんかこう派手で絵になるようなやつがいいんだけど」
「あっはい。派手で絵になる依頼ですか?んーーー……」
選んでくれという無茶ぶりに渋る様子もなく、受付嬢は握り拳を顎に当て唇を少し寄せた顔で考え込む。
おそらく相当素直な性格なのだろうと、俺の中で好感度がさらに上がったのは内緒だ。
「ちなみに、俺達の評判ってそんなに広まってたりするの?その爆裂の大魔導師って」
「…………。」
「あのぉ」
「…………。」
返事はない、長考中のようだ。
しばらくして、受付嬢は恐る恐るという風に一枚の手紙を手に取った。
「これなんて如何でしょう。派手で絵になるかはケン様達次第とは思いますが。それに……」
「それに?」
「すっっごく大事な仕事です」
「じゃあ受けます」
こうして俺達の次のミッションは決まった。
内容はまだ知らないけど、この仕事を引き受けることは確定した。
「ケン、内容を聞け」
受けること自体は確定したが、動画のためにもそれだけは聞いておくべきというなかつの意見には賛成である。
おたの出した"体を張る系はNGで"というカンペは無視だが。
「すいません、ちなみにどんな依頼ですか?俺等なんでもやりますんで」
「ディオニューソスファミリアのボルギュスさんからの依頼です。依頼内容は七番街四神祭の助っ人依頼と書いてあります」
「なるほどわかりました喜んでお引き受けします」
「それでは依頼主へ連絡致します。すぐに依頼内容の詳細をお話ししたいとのことですので、奥の部屋でお待ち頂けますでしょうか」
受付嬢にそう言われた俺達は、一回の奥にある応接室のような部屋へと案内された。
しばらくして部屋の扉が叩かれ、受付嬢に連れられた見覚えのある大男がのそりと現れた。
こうしてある人物との再会を果たすこととなり、次の新たなる動画のネタを手に入れたのであった。
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