腐ったJK4人組が不道徳な恋愛について駄弁ってみた件

「ねえ、みんなさ?」

 私達の馬鹿みたいな議論は、いつだって侑里の突飛な発言から始まる。

「不道徳な恋愛って、どんな関係のこと言うと思う?」


「結構大雑把な質問な。あんたにしては珍しい」

 萌木子は頼んだアイスコーヒーに砂糖を溶かしながら呆れた顔をしていた。女子高生らしからぬ組み合わせだ。


「いつもはもっとひどいもんねー。鯖と鮭どっちが攻めっぽいかって質問は頭抱えたもん」

 美柑はチョコのフラペチーノを啜りながら不敵な笑みを浮かべた。


「ふ、不道徳な恋愛って?」

「それを探っていこうと思ってるのよ!花梨!」

 侑里は私に向けて指を鳴らした。


「不道徳、その意味は非常に広く大きな可能性を秘めているわ!一体何が不道徳なのか、何が道徳的なのか、そもそも恋愛と道徳は共存し得るのか……私達腐女からしたら取り組むべき課題だと思わない?」


 いつのまに私らは腐女扱いになったのだろう。そう思いつつも、他の2人も私もその部分について否定はしなかった。


「だから、みんなで自分の思う不道徳な恋愛のあるべき姿について語り合いましょう!」

 ほう、いつもよりは曖昧な分、中々に話しにくい議題だと思った。テーマが大きすぎるのも難儀なものだ。勿論、鮭と鯖ほど狭められるのも考えものだが。


「不道徳な恋愛と聞くと、最初に出るのは身分差恋愛かな」

 萌木子はそう言ってアイスコーヒーを啜った。


「具体的には?」

「具体的?例えば……ほら、王様とその執事とか?大体王様は高飛車でシャープな眼鏡かけてて傲慢に当たり散らしてて、それを完璧な執事がシャープな眼鏡かけてて優しく完璧にフォローするとか、いいよな?」


 萌木子のアニメのようなツインテールが横にふわっと揺れた。

「普通はそれ、王女様と執事じゃ……」

「女はいらねえ。この世の創作は男だけで充分。これ常識な?」


 私の突っ込みに萌木子は間髪入れず返答した。

「でもー、流石にどっちかはシャープな眼鏡やめたら?趣味でてるね」


「なっ……べ、別にそんなんじゃねーし!ちょっと今、たまたまシャープな眼鏡にハマってるだけだもんな!な!」

「いや、萌木子いっつもシャープな眼鏡推しとーよ?」


 私は呆れた顔で萌木子を見ていた。

「な……んじゃ……美柑はどうなんだ!?人のこと煽ってねーで自分の意見も言えよな」

「えー?わたしー?そうだなあ……」


 美柑はロングな黒髪を見せつけながら、にこりと笑って答えた。

「やっぱり、意識差の恋ね」

「意識差?」

 私は首を傾げた。


「そう、例えば向こうはめちゃくちゃ好きだけどこっちからしたら遊び相手とか。こっちも向こうも何股もしてるとか。オーソドックスだけど不道徳じゃない?」


「あー不倫とか浮気とか?」

「そうそう!あれね。やっぱり帰りを待つ男と外で女作って蔑ろにしてる男とか、本当に不道徳だと思うわね」

「でたでたいつものSM男男」


 そこはSM男女ではないのかと言われそうだが、断じて男男である。断じて。

「いやいや萌木子。これは単なるSMの世界じゃないのよ。いい?男には他の男を引き止めつつ女と関係を持つことで焦らしていきたいというサドな面があってね。でもそれは自分の元から離れていくのではないかという恐れからくる行動で、健気に待つ男はそれを受容しつつ最後には自分に戻ってくることを確信しているのね。つまりこれは……」


「花梨はどう?」

「萌木子!!」

 美柑の声が響いた。


「美柑の話はややこしいから好きじゃないんだよ。あと高確率で女出てくるしな」

「何を言う!女は世間体を気にしてのこと!本命はいつだって男なんだからね」


「じゃあ最初から出さなければいいだろ?マジ複雑な。最初から2人だけでいいだろ」

「それだったらダメなの!大事なのはジェラシー!そう、不道徳とはジェラシーの権化なのよね!いつか自分の元からいなくなる不安感から罪を重ねる、その……」


「花梨はどうだ?」

 侑里がこれまでの2人の流れをぶった切って私の方を見て重ねてきた。私は恐る恐る答えた。


「ね、年齢差の恋とか、あっとーかなって」

 3人は確かにという顔をしていた。

「確かに不道徳ね」

「先生と生徒とか?」


「うん、そういうの!もっと行くと、バイト先の店長と高校生とか」

「他の不道徳にも組み込めそう!」

 お、これは久々に普通の意見で流されそうだ。私は安心して少し冷めたレモンティーを口にした。


「具体的には?」

「ぐ、具体的?」

「私だって言ったんだし、花梨もだな」

 そう萌木子に言われ、私はもじもじしながら答えた。


「ほら、小学生とか、どう?」

「うん、犯罪だな」

 な!!!私はムキになって言い返した。


「何が!?!?みんなだって思っとーでしょ??あー小学生可愛いなって」

「まあ思うわね」

「頭撫でてあげたいって思っとーでしょ?」

「ま、まあわからんでもないな」


「で、家で面倒見たいって思っとー……」

「そこはおかしい!」

「で、布団に入って……」

「花梨、そこまでにしようね?ね?」


 むむむ、2人がかりで堂々と宥められてしまった。

「なあ、侑里。女性が小学生女子を狙うのはなんて名前なんだろうな。ロリコンでいいのか?」


「な、ロリではない!!私は普通やよ?」

「普通ではないね。間違いない!」

「そういや、一応聞くけど……」


 私は変態だということで一段落してしまった。何が変だというのだろう。そしてこの爆弾は、この女の元にやってきた。

「侑里の思う不道徳って?」

 萌木子の質問に、侑里は少し迷ってこう答えた。


「無機質の恋とか?」

 そして彼女基準で普通の回答が返ってきた。

「あーロボットと人間と……」

「ほら、砂浜と海とか?」

 え?みんなぽかんとした。


「砂浜からしたら波が来るときには濡らされて体積を減らされる訳でしょ?つまりこれは受けなのよ!でも波が来なかったら石はゴツゴツしたままで研磨されない。このジレンマこそが不道徳性の」


「いい、聞いた私の方が悪かった。もうわかった。お前の存在が不道徳だ」

 そう締めくくった萌木子だったが、私には私達の存在こそが不道徳だと思ったのは内緒だ。

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匿名短編バトル没ネタ集 春槻航真 @haru_tuki

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