{第九十三話} 悟った

大剣を持ったボスと一定の距離を取り、両者睨みう状況が続いている。

次の瞬間、何処からか飛んできた何かによってボスのアーマー全体にヒビが入った。

「何っ!?」

ボスは何が起こったの分からず焦って、一瞬体制が崩れた。

この一瞬を見逃すわけはなく、走ってボスの胸に飛び込み拳を握り、鳩尾を思い切り殴りつけた。

この一撃でアーマーの耐久は限界を超え、砕け散った。

一段落付いて、何かが飛んできた方向を見ると、屋根の穴からネラが上空に立っているのが見えた。

倉庫は古く寂れているため、屋根もさびて所々に大小さまざまな穴が開いており、倉庫内に太陽の光が差している。

そんな穴を通し、ボスのアーマーをほぼ全壊にしたのだろう。

「決着は付いた、それを返してもらおうか?」

「ほらよっ」

ボスは部下からGOSを受け取ると、オレに向かって放り投げた。

意外とあっさり返してくれるんだなと、少し想定外だったが目的は達成した。

階段の様に上空から降りてきたネラと一緒に倉庫を後にした。


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喫茶店「ブルーキャッツ」でマスターに向かって、ボスが頭を下げた。

「すみません」

「いや、良いんだ。きっとアレは彼専用にカスタマイズされた物だから手に入れてもあまり意味が無かっただろう。今後が楽しみだ。」

マスターは「フッ」と笑うと何処か納得している様だった。


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とても広いホールの様な部屋に国王と貴族達が集まっていた。

壇上に国王が居り、それを囲う様に他の者が座っている。

「この国をより繁栄させ、帝国と言う地位を絶対的な物にしていく」

国王のスピーチにホールは拍手の音が響き渡った。

しかし、そんな拍手を割って発言する者が一人。

「国王、この国の防衛について聞かせていただきたい。この国は四方向を四つの国に囲まれ、防衛面が難しい事は重々承知しております。近年ではケソド王国との関係が過去最悪と言われている今、国防を特に強化しないといけないのでありませんか?そんな件にかんしてはどんな対応をお考えでしょうか。お答えください。国王!」

「国防的問題はこの国の位置的に避けては通れない問題になる事は分かっている。防衛に関しては私が絶大な信頼を置いている彼に頼んでいる。その結果、目に見える成果が現れている。しかし、彼は十分なこの瞬間に満足せず、防衛を強化すべく新しい事に日々挑戦している。そして私達はこの国の寄り良い繁栄と、平和を願い実現しようと考え、なにが善で何が悪かしっかり判断できる人材を育成していき、そんなこの国の未来を担っていく子供達には暴力に訴えるような大人にはなって欲しくないものです!」

国王の発言は先ほどよりも大きな拍手が巻き起こった。


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会議が終わり、ホールから出てくる人々の中にレクトロがとその助手と思われる二人組みが居た。

「今日の国王は発言一つ一つに強い気持ちがこもってましたね」

「確かにこの国防衛は他の国と比べ大きな差がある。それは国王も行っていたキョウイチの功績が九割以上を占めている。そんなキョウイチに頼まれて武具を生産している俺達は人事では済まされない」

店に戻ると、大きな郵便物の包みを開けた。

「今朝店に届いたこの武器。長距離狙撃専用武器、高倍率倍率に対応し様々な機能が付いたスコープ。そして、驚くべき制度。さすがキョウイチの作品だ」

大きな細長い箱の中には、クッションに包まれたスナイパーライフルが入っていた。


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名前はまだ判明していないが、取調室で取り調べていた上司が通信魔法で誰かと話している。

「彼ならおとなしくしています。なかなか手を焼いており、われわれの思想に賛同してくれるまでに時間が掛かると思われます。分かっています、戦闘中に奪い取ってしまえばログインした状態を維持したまま奪い取ればすむ事です」

上司が通信中に見ている先にある壁には、取調べを受けていた男が監禁された部屋の中で座っているのが映像として見える。

これも何か一種の魔法なのだろう。

そして上司が居る部屋とガラスの壁で区切られた向こうの部屋では、女性が一人捕まっており、なにやら洗脳のような事をされている様だ。


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GOSをアップグレードした翌日、のんびりと一人で川の辺で水のせせらぎに耳を傾け、クリエイトで作った棒を二本立て、ハンモックをかけて日に当たっていた。

異世界は空気がとてもおいしく、自然をこの身で感じると現世の数倍気持ちがいい。

そこへ女性が一人歩いて来た。

「昌...」

「ん?」

名前を呼ばれた方を見ると、ネイが立っていた。

少し様子が変だ。

アニメや漫画等で自我を失った人の目に光りが無いことがよくあるが、今のネイはそんな感じだ。

ネイに話しかけるが、最初に名前を呼ばれた以外は一言もしゃべらない。

これはいやな予感しかしない。

ネイは双剣を構えると、こちらへ投げつけてた。

飛んできた件はハンモックの両端にある棒に縛り付けたひもを切り、オレは地面に落っこちた。

「イッタ!」

地面に強く腰や背中を打ちつけたが、どうやらゆっくりと痛みを感じながら起き上がる暇は無いらしく、ネイが新たに出した双剣を構えてこちらに走ってきた。

GOSで腕の一部をシールドで覆い、ネイの攻撃を防いだ。


「始まったな」

少し離れたところで双眼鏡を使って昌達の様子を伺っている三人組が。

「相手が操られているとも知らずに」

「いいか、ヤツがやられたらすぐにアレを回収するぞ!」

「はい」「ッス!」

やはり、昌の部屋に乗り込んできた三人組だ。


ネイの動きはとても早い。

双剣と言う職業の特徴かも知れないが、一回一回の攻撃力の低さと言う点は反映されていないらしく、一撃一撃が重く痛い。

何とか攻撃を受け流しチャンスをうかがっていたが、腹部に蹴りを食らってしまった。

その蹴りはとても強力で、痛みに耐えかね膝を付き吐いてしまった。

「くっ!あぁ...」

痛みに苦しんでいるオレに対し、ネイは容赦なく首を掴んで持ち上げた。

「くっ苦しい...ネ、ネイ...」

ネイは無表情のまま双剣を構えた。

オレは自分自身の生命の危機を感じ、死を悟った。

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