{第六十七話} よく知らんけど

会計を済ませ、店を後にしようとしたオレに店員さんが、そっと一言。

「姫様の護衛がんばってください!w」

完全にバレてますやん...

店員さんは「お忍びですよね?大丈夫です。誰にもいいませんから!」と言った感じだ。

しかしそれでも、オレの額は汗がダラダラと流れていたに違いない。

そんな額にダラダラ流れる汗を手で拭いながら店の扉を開け、外へ出た。

「次は何処にいくんだ?」

姫様のドレスは紙袋に入れてオレが持っているのだが、まだ増えるような気がする。

「そうですね、郵便局に行きたいです!」

姫様は新しい服を手に入れて完全に上機嫌だ。

郵便局がこの世界にもあるのか?

きっと名前は郵便局では無いが日本語訳すると郵便局になるんだろう。

「郵便局に何の用事があるんだ?」

誰かに手紙でも出すのか?

「今回のパーティーにこれなかった方からバースデーカードが届いたのでお返しを書こうと思いまして」

そう言う理由なら急いでいかなければな...とは言うものの、オレに郵便局の場所が分からないので、またミイに聞くことに。

「ミイ、郵便局まで見たい案内を頼む」

「はい!分かりました!」


ミイの道案内に従い街中を姫様と一緒に歩くが、気になる事が一つ...さっきから、街を行きかう人々がオレを見て来る。

オレの顔に何か付いているのか?

しかし、街の人の反応はオレを見てニコニコしている。

オレは何かしたのか?見に覚えは無いが。

そんな違和感を覚えつつ、郵便局の中へ。

石や木が主な建材として使われているはずの異世界のはずだが、この郵便局は見た感じコンクリートで出来ている。

この感じからするに、鉄筋コンクリートでもおかしくない。

そんな外観を眺めながら入り口に向かうが、ここでも驚く。

入り口が自動ドアなんだが?しかもガラス製で、両開きのヤツだ。

あまりにも普通すぎて、普通に中に入りかけたわw

中に入ると更に驚きが止まらないんだが?

何故かって?

天井に蛍光灯が付いてるんだぜ?ここは異世界だぞ?

ここまで来ると、アノ人の影がチラチラ見える...いや、こちらに向かって来る。

しかし、顔に出さないオレに対し姫様は一切驚いた様子も無く普通に中に入って受付の人に話しかけている。

よく見ると、中に居る人達も普通だ。

この状況はまるで、オレが現世に来た異世界人みたいになってるんだが?

しばらく辺りを見回していると、姫様が駆け寄って来た。

「手紙を書く便箋と封筒を買わないといけないのでお金を貸してもらえますか?」

市販の物で良いのか?

オレはてっきり、帝国の紋章が入った便箋に書いて、帝国の紋章が入った封筒に入れて、帝国の紋章が入った封蝋で閉じるんじゃないのか?よく知らんけど。

「いいけど、何処で売ってるんだ?」

姫様と一番左端の受付へ行くと、受付の女性に話しかけると少々お待ちくださいと言い残し裏の方に行ってしまった。

一方姫様は、封筒や手紙の見本一覧を見て考え中...

「お待たせしてすいません」

どうやら、裏から偉い人を呼んできたぞ?

「こちらへどうぞ」

その偉い人に付いて行くと裏に連れて行かれ、豪華な部屋に案内された。

座ったソファーはすっごいフカフカで、座ると沈む。

逆に座り心地が悪いとも言える。

「少々ここでお待ちください」

出された紅茶を沈むソファーに座りながら飲みつつ、少々待つ。

姫様の方を見ると、沈みすぎてバケツにおしりが嵌った見たいになってる...姫様がそんな事になっているって事はオレもそうなっているんだろう。

さっきの受付から封筒と手紙の見本一覧の紙を貰って来たらしく、ずっと眺めている。

しばらくお待ちしていると、扉をノックする音が、

「誰だ、俺を呼んだんは~こっちは忙しいんだぞ...なんだ、昌かw」

スーツ姿で首から名札を下げたおじさん達が入ってきた。

「何だよ、その名札はw」

「名札兼IDカードだ。お前の分もあるぞ?ほれ!」

おじさはポケットからもう一つ名札を出すとオレに投げ渡してきた。

「お、おっと...」

「これさえあれば、郵便局内のIDカードでロックされた部屋にも入れるぞ。他の局にも使えるから無くすなよ?」

名札には、オレのフルネームに読み仮名と謎のバーコードといつのまに撮ったのか分からない顔写真が書かれている。

何故おじさんがこんなものを持っているんだろうか?大体予想は付いているが...

そんな予想を裏切ってくれる事を期待しつつ、おじさんの名札を見ると、

「代表取締役社長  菊田 京一」だとよw

ほら来た、おじさんの異世界での謎の最上位役職。

つまりはおじさんがこの世界の郵便局のトップって事か...つらい。

ちなみに後ろに居るネラとネイの名札には「代表取締役補佐」だとよ、オレの名札には役職が書いてないんだが?

「オレの役職は?」

「副代表取締役でいいんじゃね?」

「それだと「副」と「代表」で矛盾してね?」

「そうだな...普通に「副社長」でいいんじゃね?」

それなら、まだましだし許可しよう。

「宣言します!私、代表取締役社長菊田京一は菊田昌を副社長に任命します!」

おじさんがそう宣言すると、オレの名札に「副社長」の文字が掘り込まれた。

「ファッ!?」

「副社長とは言っても名前だけだから特に何もしなくていい、あくまで肩書きだけだ。まぁ、それでも役には立つはずだ」

晴れてオレはこの世界の郵便局の副社長になったわけだ。

なんか、適当じゃね?

「本題を忘れていたな、何しにここに来たんだ?」

「姫様が手紙を出したいって言うから、郵便局に手紙と封筒を買いに来た」

危ない、危うくオレも本題を忘れる所だった。

「ん~、国間のやり取りだからな~適当なそこらへんの手紙と封筒じゃあ流石にマズイだろな~」

ですよね~やっぱりそうだよな~流石にマズイよな~

「やっぱり、帝国の紋章が入ってるヤツを使うべきか?」

「せやな」

オレ達の会話を聞いていた姫様は少しがっかりしている様子。

「そうですよね...」

「何とかならないのか、おじさん」

「よし!新しく作ろう」

姫様が気に入ったデザインの封筒と手紙に帝国の紋章を入れ、少し模様を入れて豪華に。

姫様と相談し何度も何度も作り直す。

調子乗ってラメをつけたり、シールを貼ったり、マスキングテープを貼ったりするデザインにすると、おじさんに区分機通すと取れるからダメと言われる。

難しい...


30分後...

「コレでどうよ?」

いくらクリエイトでポンポン出せるとは言え、流石に疲れたぞ。

「いいですね」

「いいんじゃないか」

おじさんと姫様からのOKも出たしコレで行こう。

真っ白い封筒に帝国の紋章が入っただけの物だったが、封筒の色も薄いピンク色にし封筒の淵には植物のツルやバラの模様を入れ、帝国の紋章も黒色から若干光が反射する金色にしてみた。

手紙の方も、白から薄いピンク色で淵にツルとバラの模様を入れ、帝国の紋章も金色に。

今後姫様からの手紙はこのデザインになり、このデザインは姫様専用にした。

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