6話 煩悩

 アヤメは、子供達がケガをしていないか確認し、船底の部屋でロープを見つけたので甲板へ戻り、オーク二匹を縛った。


 「おーい!オークさーん!」

 肩の関節が外れた方によびかける。


 耳のピアスをうばわれたオークは、牙の間から舌を出したままグッタリしている。


 「あれー?起きないなー」


 ポカキキ!!


 アヤメは器用に縛られたままのオークの肩の関節をはめ直した。


 「ブヒッ!?痛だーーー!!」


 強烈な痛みで意識を取り戻すオーク。

 隣のもう一匹もその声で目を覚ました。


 「あれ?何で俺、縛られてるんだー?」


 アヤメは息を吸い込んで

 「オークさーん!聞こえますかー!?」

 ピアスのあるオークの大きな耳へ叫んだ。


 「ぎゃーー!!うるさーい!!ちゃんと聞こえてっから!なんだよーこいつー!?」

 

 アヤメは満足そうにうなずき

 「オークさん達、私とのあっとー的な強さの違いが分かってもらえましたか?」


 最初に気絶させられた、キーンと鳴る耳にピアスのあるオークは暴れ

 「何なんだお前はよー!?いきなり現れてこんなことしやがってー!

 あっ!船を操らねぇと島に着かねぇー!」

 オークは夕陽に光る波を見てあわてた。


 アヤメはその鼻づらに白い細い指をさして

「オークさん達は子供達をさらってどーするつもりだったんですか?」


 耳にピアスのない、秘技ロケットパンチャーを味わったオークはまだ痛がっていたが、仲間の態度を見て

 「おい!この人間の女、細くて弱そうだけど、なんか変な技を使うから逆らわねぇ方がいいぞ!?」


 耳にピアスは鼻息をブヒッと鳴らして 「へっ!うるせー!人間の女が俺達より強い訳ねーだろ?

 こらー!人間!ぺっ!ぺっ!この縄をさっさとほどきやがれ!!」

 オークはつばをはいた。


 もちろん最強くのいちは身をかわす。

 「うわっ!汚なっ!」


 ポカキキ!!


 「うあっぎゃー!!」

 秘技ロケットパンチャーがさくれつした。


 ピアスのオークはその痛みのあまり、気を失った。


 ピアスのない方は、ゴクリとのどを鳴らして素直になった。


 「ななな、なんでぇ!?何がしてぇんだー!?

 俺はこいつと違ってもう逆らわねぇし、何でも言うこと聞くからよー、頼むからそのポカキキッだけはカンベンしてくれよー!!」

 痛みを思い出して震え上がる。


 アヤメは細い腕を組んで、満足そうにうなずき

 「よろしい、私はそーいう態度を待ってました。

 じゃあ今からあなたの縄をほどくので、船をロマンチックな街へ向かわせて下さい!」


 オークはこきざみにうなずき

 「分かった分かった!やるやる!ただよー、そのろまんちっくてーのがよく分からねぇんだけど!?」


 アヤメは人差し指を口にやり、少し考えた。

 「えーっと。そう景色!景色がきれいでー、料理のおいしいとこ?

 うんうん!何かそんな感じです!」


 オークもちょっと考えて、ブホー!

 「おっ!それなら思い当たるとこがあるぜ!水がきれーで、うまい魚のとれるいい所を知ってる!

 よし!そこ行こう!今直ぐ行こう!」


 アヤメの頭の中には、里の川魚のアユがいろりで焼けている光景が広がった

 「ちょっと違うけど、良いかもー。

 あっ!そこにはイケメンさんはいるかなー?」


 豚顔はハテナ?

 「いけめんさんってなんだ?」


 「かっこいい男の人です!!」

 すごい速さで答えた。


 オークは知っている人間の男を思い浮かべ、もうしわけなさそうに恐る恐る

 「悪りぃけどよ、そ、その……た、高く売れそうな、女みてーな顔で、目がでかくて、鼻がまっすぐな背の高い、若い奴しか知らねぇなー」

 

 パチーン!!

 「ブヒッ!」


 小気味のよいビンタを決めたアヤメは目を輝かせ

 「それそれ!!そーいうの、です!!」


 オークはビックリして心臓が止まるかと思った。

 「あー痛たたたた……何か俺、お前といるとつかれるなー」


 ヨシロウがアヤメの足にポンと手をついて

 「やったね!かなりの確率でそれイケメンさんだよー!この世界に来て良かったね!」 

 アヤメは必死に前髪を手で下ろしながら

 「うん!でもどーしよー!?私パジャマなんだけどー?」

 

 月の輪熊の子供は立ち上がり、和風美少女を見上げ、小さな親指を立てて

 「アヤメはカワイイから大、丈、夫!

 それに変に自分をかざるより、素のままの自分を信じてぶつかってみた方が好印象だよー!」

 全く子熊らしくないことを言った。


 アヤメの瞳がルビーの輝きをおびてきた。


 「阿也小路アヤメ16歳!至上最強のくのいちです!お友達になってー下さい!」

 横ピースには殺気がこもっていた。


 ヨシロウは黒いつぶらな目を見開いて、コテンと座りこんで

 「いいね!今のでイチコロだよ!!」

  

  アヤメはそこでオークが寝ているのに気付いた。


 パチーン!


 「フガ!」

 小気味よいビンタでオークは目覚めた。


 「オークさん!寝てる場合じゃないですよ!?

 ロマンチックな街へ行く前に、さらった子供達を返しに行かないと!」


 耳にピアスないオークは豚頭を振って

 「痛てててて。お前ムチャクチャやるなー……友達いないだろ?」


 パチーン!


 「ブヒッ!!」


 アヤメは黒い子熊を指差し

 「いますけど……何か?」


 オークはルビーの瞳を見て震えあがった。


 「わ、分かったよー!俺が悪かった!

 でも、子供を逃がすのは出来ねぇ!!

 俺達のかせぎがなくなっちまう!」


 ヨシロウが立ち上がり、小さな手を腰にやる

 「あのねー豚の人さん。アヤメの秘技は全部で百八つあるから、生きてるうちに言うこと聞いた方が良いと思うんだー」


 オークはロケットパンチャーを思い出し、目を丸くして

 「あ、あんな恐ろしい技が百八つ!?

 いやだー!

 でも俺……人間の子供売って金欲しいし……」


  アヤメが手刀を構えて

 「じゃー仕方ないなー《クルクル内臓シャッフルパーティー》かー、んーと《ドキドキ心臓休憩タイム》からやってみようかなー?

 ヨシロウ、どっち見たい?」


 「んーボクは《ヤッパリろっこつは六個でしょ?》かなー?!」


 オークは読者と同じく、忍の里のもの同士の会話の意味が分からなかったが、何かとんでもなく恐ろしいものを感じた。


 「分かった!分かったよ!ガキどもはさらった港に帰すよー!

 お前ホントおっかねぇなー!!すぐたたくしよー……」



 三時間後、アヤメは港の子供達へ手を振っていた。

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最強くのいちアヤメは異世界で恋愛がしたいようです 有角弾正 @arukado

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