Ⅰ
救世主と魔王が生まれて、数年の月日が経った。
この頃、世界は魔物が巣くう混沌とした時代に突入していた。
感情のなかった少女は姿の分からぬ魔王として、この世界を恐怖のどん底へと叩き落していた。
配下の魔物を使い、人々を襲い、殺し、悪逆の限りをつくしていた。
しかし、そんな魔王となった少女に悪意などかけらもなかった。
ただ、少女は自分を救ってくれた神様に従ったまで。魔王とは知らず、神様の言うことを信じ、親だと
それが当たり前だと思っていた。
少女はそれがいい行いだと思い疑わなかった。
いつしか、少女は心も体も闇に染まっていた。誰もが恐怖する本当の魔王へとなってしまっていたのだ。
誰も少女を止めない。止めるものなんていない。
少女にあるのはただの一つだけ。命を救ってくれた、自分に生きる価値を見出してくれた、先代魔王の教えのみ。そうして、授けられた従順に従う配下の魔物のみ。
少女は自分で考えることなどしてこなかった。いや、する必要などなかった。
だって、少女には絶対的な教えが存在する。
それを疑うことなど、少女には考えもつかなかった。
神様だという魔王から言われた言葉が頭の中を埋め尽くす。
「人間は悪だ。殺さねばならない。この世界を守るために」
少女は高らかに笑う。
もう、感情のなかった頃の面影などなくしてしまったかのように、邪悪な笑みをその口元に浮かべる。
自分が人間であることも、少女の頭から抜け落ちてしまったようだ。
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感情のない少年も、少女と同じように成長を遂げていた。
最初の頃とは比べ物にならないほどの、微笑みが似合う少年へと変わっていた。
王様の教育は行き届いていた。
物心がついたころ、少年は自分が世界を救う救世主だと疑わなかった。
なぜなら、その頃を境に世界には魔物が
いくばくの時が流れ、少年は国を飛び出し旅に出ることを決断した。
もちろん、王様も含め、その国全員が少年の旅路を祝った。魔道師も貴族も、国民すべてに見送られ、少年は本当の救世主になるための旅に出た。
これで世界が救われる。
魔物に怯える日々とはおさらばだ。
そんな笑みが国民全員から感じられた。
それもそうだろう。少年を召喚した日から今日まで、国民すべてがこの時を待ち望んでいたのだから。
しかし、歩みを進める少年には問題があった。
それは、魔物を悪だと思いこみ、人間は善だとする考えだ。善は助け、悪は滅ぼすのが当たり前。
それが今の少年に心を覆っていた。
王様の熱心な教育の賜物だろう。少年はどういった意味でも救世主だった。世界は善と悪の二つで区別できると疑っていない。魔王になった少女と同じように、自分の考えなど持っていなかった。ただ、親だと信じ、慕っている人の言葉を守るためにしか動いていない。
しかし、少年は知らない。
世界には善悪では図れないたくさん感情があることを。
それに触れた時、少年の心はどうなるのか。
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君達には想像にかたくないだろ?
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