あとがき
初めましての人は初めまして。
前作を読んでいただいていた方はお久しぶりです。
趣味全開の後書きまで読んでいただいて本当にありがとうございます!
ここでは今後の『メソロジア』シリーズの展開を始め、今作の補足と解説、執筆の裏話などなど、本編では文字にできなかった情報を色々と載せていきたいと思います。最後には次巻の告知もあるので是非とも目を通してください!
では、まず『メソロジア』シリーズについて。
今作『メソロジア~ブラック・ストーム~』はシリーズの中で番外編という位置づけになります。あくまで本編は今後公開予定の無印の『メソロジア』であります。その他のシリーズは本編を補足する役割になっているということです。
本作は番外編『ブラック・ストーム』シリーズの第一作目、『入学編』となります。
では、なぜ本編を書く前から番外編を書こうと思ったのか。
理由は二つです。
一つ目はラクニルという場所のイメージが明確ではなかったからです。
前作のネタバレになるので詳細は控えますが、後々の展開において本編『メソロジア』でもラクニルが舞台になります。いきなり本編の舞台をラクニルに移すとなると、膨大な設定を一冊に収めることが必要となります。全てをまとめる訳にもいかないので、取捨選択していく中でお伝えできない情報も出てくると考えました。
前作の後書きでも語りましたが、私が現代を舞台にしたラノベで最も重要だと思うことは、その世界観が現実に即しているかどうか。設定とは『架空』と『現実』を繋げるための接着剤のような働きをしているのです。
小説は設定資料集ではありません。いきなりラクニルを本編に登場させると、多くの設定を載せることができないため、現実に即していると読者の皆様に感じてもらえないのではないかという結論に至りました。
よって設定を小分けにしても違和感がないような内容で番外編を書いておこうという流れになったのです。
今作で意識したのは『ラクニルの空気感』です。
実際に通う生徒がどのような考え方をしていて、どのような生活をしているのか。それをお伝えすることが大きな目的でした。無事に伝わっているのでしょうか?
上柳高澄のように界術師としての夢を追う生徒がいます。
今津稜護、白詰姉妹のように分家関係者として家の都合に振り回される生徒がいます。
寺嶋蒼希、寺嶋天乃のように本家の人間として活動する生徒がいます。
霧沢直也、遠江真輝のように『裏側』に足を突っ込んでいる生徒がいます。
ラクニルに通う生徒には様々なパターンがあります。
今作では上柳高澄、霧沢直也という二人を主人公として、この二人の立場から見たラクニルや界術師という世界を描いてきました。ですがまだまだ他にも様々な立場や出身を持った生徒はいます。第一校区だけでこれだけ書けるのです。第八校区まで視野を広げたらどうなるのか今からワクワクが止まりません。
私は視点の数だけ物語があると考えています。
ラクニルという同じ舞台でも上柳高澄と霧沢直也では見える景色が違いました。例えば
視点が変わるだけで別の小説になったように物語の雰囲気が変わる。
これこそ『世界観』という要素を重視したラノベの醍醐味だと思っています。
今作でそこそこラクニルという学園の雰囲気を描けたとは思っていますが、まだまだ語っていない設定は山ほどあります。『ブラック・ストーム』シリーズはまだまだ続きます。その中でよりラクニルという場所がより鮮明になっていくと思います。現在の予定ではあと3作ほど書きますのでお付き合いください。
では、番外編を書こうと思った理由の二つ目です。
キャラクターを本編よりも先に登場させておきたかったからです。
今作だけでも十人以上のキャラクターが登場しています。
これから番外編を進めていく中で更にキャラクターが増える予定であることを考えると、いきなり本編の舞台をラクニルに移すと大変なことになると予想できます。一巻の中で一体何人の新キャラクターが出てくることになるでしょうか? イラストがない段階でそれをするともう誰が誰だか分かりません。
今作でも何とか読者の皆様の印象に残そうと必死に努力をしました。
小分けにして登場させたりだとか、口調を特徴的にしてみたりだとか、容姿描写をこれでもかと書いてみたりだとか。
それにやっぱり思い入れがあった方が楽しく書けるし、楽しく読めると思います。
彼らが中心になるストーリーを前もってやることで、将来的に出番が減ったとしても空気なキャラにならないようにしてあげたい……みたいな事も考えてます。キャラクターも生きてますからね、無下には扱いたくないものです。
以上が番外編を書き始めた経緯になります。
今後もしばらく『ブラック・ストーム』が続いていきますが、本編に負けないくらい重要な内容を扱いますので期待していてください。
さて、ここからは今作の補足、解説、裏話を。
長いですね。本当に長いです。
言い訳をさせてください。本当はこんなに長くなるはずではなかったんです。
諸悪の根源は、上柳高澄です。
当初の予定では霧沢直也が特班を作る話をメインにして、上柳高澄の話は本当におまけ程度のものでした。
上柳高澄に与えていたのは『ラクニルに通う普通の生徒』の空気感を読者に伝えるという役割だけ。あとは
ストーリーも片羽翔子にちょっかいを出してくる森下瞬とか言う分家関係者を、謎の転入生である霧沢直也の力を借りてボコボコにするくらいの単純なものです。ライバルがどうとか幼馴染みとかプロ界術師とかそういう複雑な事情は一切なかったです。
では、どうしてここまで上柳高澄が大きな存在になったのか。
それを今作の執筆の経緯と合わせてお話ししていきます。
そもそも、今作は数年前に電撃大賞に投稿した前作のプロトタイプの続きとして想定されたものが元となっています。ラクニルや界力術といった基本的な設定はほとんど変わりません。
当時、私が書こうとしていたのは俺TUEE系主人公の霧沢直也が無双してハーレムを形成するという内容でした。白詰姉妹にはその名残を感じますね。旧作で霧沢直也は早乙女京子すら毒牙に掛けていました。
その時の上柳高澄は非常に情けない存在でした。立ち位置は名前が与えられただけのクラスメイトA。分家関係者であり、上位分家に逆らえないせいで喝上げにあったりイジメられたりしている気弱な少年です。森下瞬も今作以上に小物で、最初に霧沢直也にボコボコにされて出番が終了していた記憶があります。そもそも名前すらなかったですね。
私はこの作品を文庫本一冊くらいの文字数まで書いたところで断念しました。
プロットも用意して、結末も決まっていました。それでも全く筆が進まなくなりました。
この作品に魅力を感じなくなったからです。
では、今作と旧作の大きな違いはなんでしょうか。
ずばり、テーマの有無です。
この作品で自分は何を伝えたいのか。
どんな想いを持ってキャラクターと共に世界を旅しているのか。
それを忘れてしまえば物語は瓦解していきます。
テーマとは羅針盤のようなものなのです。
優秀な船員を集めて、目的地を設定して、それまでの道筋と地図を用意して……万全の準備を整えて出港したとします。それでも羅針盤が壊れてしまえば目的地まで辿り着けません。大海原で迷子になってしまうでしょう。
同じなのです。
面白いキャクラーに深い設定などいくら優秀なものを用意して、結末までのプロットを用意したとしても、
あれも面白い、これも面白い。書いている内に色々な結末や道中が脳内に浮かんで来ます。それらの輝きに目を奪われて想定外の方向へ舵を切ってしまう。そうなれば最後、最初に想定していた物語は跡形もなく消え去ってしまうという訳です。
またテーマが薄くなれば、物語自体も力を失います。
小説を読み終わった後に「よく分からないけどすごかった!」みたいな感情になったことはありませんか? ただ面白いだけではなく、言葉にできないような感動。これこそ作品のテーマが読者の無意識に働き掛けた結果――すなわち、物語の力に感化されたという訳です。
一本の芯が通った作品には魔力が宿ります。人の心を動かす魔法。物語が好きな人ならば抗うことのできない必殺の一撃です。これを喰らってしまえばもうそのシリーズから離れられなくなります。
私は中学生の時に『とある魔術の
旧作にはテーマがありませんでした。
なのでまずはプロットを練り直して、テーマを決めるところから再始動しました。
今作のテーマは『変える』ということ。
霧沢直也には界術師の世界を。
上柳高澄には親友との関係を。
それぞれ変えてもらうために頑張ってもらいました。
前述した通り、当初は霧沢直也が世界に宣戦布告するまでのストーリーがメインでした。立場を手に入れて、力を手に入れて、大きなモノを変えていく。次への希望を示すような終わり方になる予定でした。
ですが執筆していく中で、本当にそれで良いのかと思うようになったのです。
霧沢直也は何も変えることができていません。変えるべき相手は界術師の世界。相手が強大過ぎて、とてもこの巻では変えられませんでした。でもそれだとテーマに対する解答としては弱いのではないのか。霧沢直也は明確な答えに辿り着いていないのだから。
そんな事を考えながら書いていると、急に上柳高澄が喋り始めたのです。
俺に主人公をさせろ、と。
私はプロットを先に完成させてから執筆に取りかかるタイプです。
プロットはかなり大雑把に創ります。重要な出来事と裏でどのような動きがあるのか。矛盾がないようにストーリーを創るだけで細かい会話や流れは全部キャラクターに任せることにしています。そっちの方が面白くなると思っているからです。
実際に第14話『ペットは飼い主に何とやら』や第15話『待ち合わせ』の前半といったギャグシーンは全部アドリブです。勝手にキャラクター達が脳内で話し始めるのでそれを文章にしているという感覚でしょうか。他にもそういう箇所はいくつもあります。
上柳高澄が喋り始めたのも、これと同じ感覚でした。
プロ界術師になりたいと言い出して、森下瞬はかつての親友だったということになって、そいつを救いたいと言い出して……怒濤の変更が始まりました。でも上柳高澄のストーリーはあくまでおまけ。そのためどれだけ変更が入っても特に矛盾が生じることはなかったのです。おかげで文字数は予定の1.7倍くらいに膨れ上がりましたが!
上柳高澄が主人公にこだわっているように描写しているのはこのせいかもしれませんね。
元々脇役で生まれたキャラクター。だから俺は主人公じゃない。
それでも主人公に憧れている。
書き終わった今となっては上柳高澄がいない状況を想像できません。本当に良いキャラに成長してくれました。
そして、上柳高澄は第28話『変わる世界』で次のように言っています。
――すぐには受け入れられないし、都合良く過去は消えてくれない。時間は掛かかるし、他にも色んな問題が起きるかもしれない。でも、いつかはきっと変えられる。俺はそう思うんだ。
これこそが今作のテーマに対する解答。
何かを変えるということは非常に難しいです。だけど、それでも、変えようと思って行動を続けていれば、いつか必ず変えることができる。それをはっきりと感じ取れたのです。
これは上柳高澄が主人公になってくれたから辿り着けたゴール。霧沢直也だけではこの解答を見つけることはできませんでした。本当に改変して良かったです。
上柳高澄に関してはあと一つだけ重要なポイントがあります。
森下瞬に対してずっと「瞬は俺のライバルだ」と言おうとしてきました。上でも下でもない対等な存在。だから一人で悩むんじゃなくて、一緒に前に進んでいこう。こう伝えることによって上柳高澄は森下瞬の心を救おうとしてきました。
ですが最後、実は少しだけ台詞が変わっています。森下瞬を模擬戦で倒した後は「俺は瞬のライバルだ」と言い換えています。気付いていただけたでしょうか?
これは非常に重要な変化です。
森下瞬と対等な存在になりたいと思っていた上柳高澄ですが、きっと心の奥底では森下瞬よりも下だと感じていたのです。何度も負けて、背中を追い掛けるだけの存在。どれだけ言葉にしようと思っても対等だとは感じていなかったのでしょう。だからこそ、森下瞬は、自分の、ライバルなんだという言い回しになるのです。
ですが模擬戦で勝利して始めて対等な存在だと思えるようになりました。
こうして自分が、森下瞬の、ライバルだと胸を張って宣言できたという訳です。
台詞の順番を変えただけですが含んでいる意味合いは大きく違います。上柳高澄がこの順番で言える強さを手に入れたからこそ、森下瞬はクスリという安易な逃げ道を選ばずに負けを認めることができたはずです。
もし中等部一年生の冬に「瞬は俺のライバルだ」と言えていたとしても、森下瞬の心は救われていなかったでしょう。上柳高澄にも自信がなく、森下瞬も対等だと認めていない。何かを変えるために必要なのは『何を』言うかではなく、『誰が』言うか。このシーンは霧沢直也の主張の証明にもなっているのです。
以上が上柳高澄のストーリーに関する補足でした。
次は霧沢直也のストーリーに関する補足です。
彼のストーリーに関しては予定から大きな変更はありませんでした。今作の内に書かなければならないことは全て文字にできたと思います。
霧沢直也は本当に強いですね。三つの方式を使えるのは流石にズルいです。最初は全ての方式を完璧に使えましたが、それではパワーバランスが崩壊しかねないので弱体化。刻印術式はほとんど使えなくなってしまいました。実は
今津稜護はシンプルに強いです。今作のラスボスとして良い役割を担ってくれました。前半ではラクニルに敵無しとまで言っていた霧沢直也をギリギリまで追い詰めてくれたんですから。他に正面からまともにやり合えるのは寺嶋蒼希くらいではないでしょうか。寺嶋蒼希、どんだけ強いんでしょうね。流石は次期寺嶋家当主様です。
英雄化や憑依のように各方式にはそれぞれ真骨頂を用意しております。今作では闘術に焦点を当てていることもあり英雄化をお見せすることができました。
前作で解説を忘れていましたが、儀式術式の真骨頂は『特異点の形成』になります。術式構築上の制約を無視できる空間の創造ということで非常に協力な手法ですが、『世界樹』のような特別な『場』が必要になります。そのため使えるタイミングはかなり限られてきます。
その点、英雄化と憑依は使いやすいですね。だからこそ英雄化は使える人数が少ないという事情もあったりします。闘術使い全員が英雄化できたらバランスが崩壊しますからね。憑依に関してはまだ文章にしていないデメリットがあったりします。過ぎた力を使うにはそれなりの代償が必要だということですね。
白詰氷華は本家・分家関係者の中での平均的より少し上の腕前というイメージで書いています。
儀式術式は考えるのが本当に楽しい方式です。姉の儀式術式もまだお見せしていませんし、これからもどんどん儀式術式を使う界術師は増えていくと思います。同じ
また、白詰氷華には本当に助けられました。遠江真輝がとある事情からヒロインをできない今作において、白詰氷華の活躍は非常に大きかったと思います。最初はちょっとこの性格で大丈夫かとも不安になりましたが、最後はきっちりヒロインをしてくれました。頭は良いけど現場知識のない敬語後輩キャラ。霧沢直也とも絡ませやすかったです。
白詰氷華と白詰陽華に関するストーリーもどこかで本腰を入れて書く予定にしています。早く救ってあげたい二人です。
また二人には本家や分家といった界術師の世界がどんなものかを示すという役割もありました。森下瞬も界術師の世界の被害者になります。彼らの苦悩や言動から、なんか面倒そうな世界なんだなーっと思ってもらえれば成功です。またこの界術師の世界を創る上でとあるラノベを非常に参考にしています。読まれている方は気付いたのではないでしょうか。
霧沢直也が変えたい界術師の世界。その元になっているのは現代の若者――『悟り世代』と呼ばれる彼らの目に映る世界です。私自身も『ゆとり世代』と『悟り世代』の両方に関わって成長してきていますが、将来に期待を持てず、ただやってくる未来を受け入れるしかないという現実は非常に退屈で、受け入れ難いと思っています。
勿論、この世代でも成功している人はいます。こんなもの個人の能力次第だと反論されてしまえばそれまでですが、大勢の若者が諦観を持っているという現実がある以上、やはりその原因は社会や空気――世界と呼ばれるものにあると思う訳です。
諦観を抱く一人の人間として、霧沢直也の今後の活躍は楽しみです。作者として、読者として、彼の今後も見守っていきます。
さて、物語の補足と裏話はこんな感じになります。
ではでは、最後に今後の展開を。
番外編『ブラック・ストーム』はまだまだ続きます!
次巻もラクニルが舞台です。今作が4月で、次巻は6,7月くらいの物語になるでしょうか。本編である『メソロジア』はもうしばらくお待ち下さい。『ブラック・ストーム』が一段落した後に書き始める予定です。
今作を読んで『メソロジア』シリーズに興味を持っていただけましたら、本編の前日譚である『メソロジア~At the Beginning of Mythology~』も読んでみてください! 2018年5月21日(月)より文字数等を変更して読みやすくしたバージョンを毎日1話ずつ投稿していきます!
舞台は関東地方某県にある九天市という架空の都市です。本土で巻き起こる大事件に対して、本編の主人公である
また次巻の内容的に前日譚を読んでいた方が面白いかもしれません。少し投稿間隔が開きますので、宜しければ目を通してください!!
『ブラック・ストーム』シリーズの次編の投稿日は未定です。すいません。何とか8~9月頃に更新できるように頑張ります!!
詳しい日時や進捗状況はTwitterで告知していくので宜しければフォローをお願いします。ペンネームで検索していただければアカウントが見つかります。
では、最後に謝辞を。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!
今後とも凝った設定と深い世界観を追及した物語を提供できるように頑張ります!
応援を宜しくお願い致します!!
実は寺嶋天乃が一番好きなキャラクターだったりします
2018年4月某日
夢科緋辻
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