Side White(2)
うっかり聞き流すところだった。
「生徒?」
「そうだ。さっきも言ったが1のLだ」
「1年?」
嘘だろ! 一馬はしばし考えた。
「なんか事情があって、入学が遅れたとか?」
「ああ。そうなんだ」
入学式にも出られなかった、と緑川は少し哀しそうに言った。
だったら納得だ。
「遅れたって、15年くらい?」
「いや、入学式の前日に、時季外れのインフルエンザにかかってしまって」
「マジか!」
驚いた。もちろん、インフルエンザの話じゃない。入学の遅れが数日程度ということにだ。
「じゃあ、一か月前まで中学生だったってこと?」
緑川が、当然のことを聞くなと言わんばかりの顔で見返してきた。
「そうだが」
「んなわけあるか!」
どっからどう見てもおっさんじゃねえか。若く見積もっても30代後半だ。
「そんなこと言われても困る。私は15歳だ」
「15の男が自分のこと私、とか言うかよ!」
「私は幼稚園の頃から、自分をこう呼んでいるぞ」
「そんな園児はいねえ!」
疲れた。突っ込み慣れしてないのもあるが、ひどく疲れた。
「君は?」
「あ?」
「さっきから、私に質問ばかりしているが、君自身は名乗ってすらいないぞ」
あ、そうだった。
「赤城一馬。1のB」
「Bなら普通科だな」
一馬はうなずいた。
「じゃあ赤城君。マスクドヒーロー・旋風は知っているか?」
突然、懐かしい単語が飛び出してきた。
「ハヤテ! ガキの頃流行ったな」
周りの友達同様、一馬もがっつりハマった。もちろん変身グッズも武器も持っていた。初期形態から究極フォームのまで全部だ。
「私はそれに出ていたドクターPが大好きだった」
そういや、いたなあ。そういうの。
「私は当時、言葉遣いのひどい子どもで、困り果てた親は、どうせならドクターPの真似をしろと言った」
なるほど。汚い言葉遣いよりは、マッドサイエンティスト口調の方がマシってか。
「一人称を私にすると、それに続く言葉も自然とそれに合わせるようになる。そのうち、これが私のスタイルとして定着したというわけだ」
なんて奴だ。こいつはありのままの姿で、本人はまったく狙うつもりなくて、ボケ倒してる。
「分かった。緑川――コウキでいいか?」
せめて、呼び方くらいはおっさんぽくない雰囲気にしときたい。一馬は思った。
「ああ、構わんよ」
「オレもカズマでいいから」
そう言うと、緑の巨人が少し嬉しそうに口の端を持ち上げた、気がした。
「コウキは、オレに何か聞きたいことない?」
「一つある。その髪の色はどうした?」
予想した通りの問いだったが、なぜか笑ってしまった。普通の髪色の奴ならともかく、緑モヒカンから聞かれるのは変だろ。
「これはブリーチに失敗しただけ」
直そうと思っていたところに、真っ赤な髪の白井に出会った。赤髪の理由をベニタスファンだからと聞いて、自分もやろうと思ったが、そのまま真似るのは面白くないから結局止めた(ベニタスの応援に行く時は、赤いキャップをかぶることにした)。
さて、次だ。期待を込めて耕喜を見る。だが、緑の大男は納得したようにうなずいただけだった。
「え、終わり?」
「すまない。また思いついたら質問させてもらう」
「いや、そうじゃなくて」
耕喜は不思議そうにしている。
「なんかコメントあんだろ。髪のことで」
「うむ。よく似合っているぞ」
「ちげーよ! 褒めてくれるのは嬉しいけど」
なんだろう、この空しさ。
「名前! オレの」
「一馬だろう」
「苗字の方だよ」
「確か、アカギと言ったかな」
「そう」
そこで一言。来い!
「てめえ!」
「一馬は一体何を怒っているんだ?」
ああもう。師匠と白井さんはしょうもねえボケをスルーできない身の辛さを嘆いていたが、それよりも辛いのは、ボケを説明させられることだ。
「オレ、赤城」
頭を指さしながら言う。
「君の名前と髪の色に、何か関連性があるのか?」
一馬は手を下ろした。なんだかバカバカしくなってきた。全身全霊でボケてるこいつに突っ込ませようなんて思ったのが間違いだ。
「もう、いいや」
こいつは、白井さんの頭見てもスルーしそうだな。そのうち、突っ込めよ! って白井さんの方がキレそう。
「コウキ」
一馬は新しい友人(候補)を見上げた。ダチになるかどうかは、一緒にメシを食ってから決める。それがオレのポリシーだ。
「パキスタン料理、ナイジェリアでもいいけど」
緑と白。
「む?」
「出す店、知ってる?」
赤と黒。と白と… 千葉 琉 @kingyohakase
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