第19話 遺跡突入前夜
「じゃあリアーノってずっとハンターしてるの?」
「まあそうだなぁ。オレっちの場合は、食べていかなきゃなんなかったしね」
「…そっか」
「なんだ、お前なかなかに大変だったんだな!」
「まあな!」
私の問いかけに答えたリアーノは、たて続いたジャンの問いかけにもへへっ、と笑いながら答える。
「まあ、でも、ハンターという職業ですからね。このあと行かないといけない遺跡で宝箱の一つや二つ、見つけて欲しいものですね」
さらり、と地図を広げながら言った二ヴェルの言葉に、「…遺跡?」とハルトが不思議そうな表情でつぶやく。
「遺跡は遺跡だ。なんだ、ハルト、行ったことないのか?」
「ない。フィンもないよな」
「うん」
ハルトの呟き反応した二ヴェルの問いかけにハルトと二人して頷けば、二ヴェルは難しい顔をして「なるほど」と小さくつぶやく。
「遺跡か! 久々だな!」
「オレっち得意だぜ!」
反対に、遺跡と聞き、明らかにワクワクし始めたジャンとリアーノに、二ヴェルはあからさまに大きな溜息をついた。
「ちょ、何で溜息なんだよ!」
「別に? ただ、先が思いやられるなあ、と思っただけだが」
「オレっちなら平気だって! 何回も遺跡でお宝発見してるし!」
「お前の心配なんてしてねぇよ」
グッ、と握りこぶしを胸の前で握るリアーノに、二ヴェルは呆れたような表情で答える。
「ハルト、ちょっといいか」
「何だ?」
キリ、と真面目な表情に切り替わった二ヴェルを見てハルトは嫌がることなく二ヴェルへと近づく。
地図を広げ、指をさし、時々「いや、でもさ」とか「だからこそ、じゃないか」とか真剣に話し合う声が聞こえはじめる。
「何話し合ってんだ?」
「なんだろうね?」
そんな二人の様子を見て、話に入っていけない私とジャンは、首を傾げながらハルトと二ヴェルを見やる。
「何って、お二人さん。そりゃあ、どっから攻めてくかじゃねえの? 」
よっ、と立ち止まったところにある適当な岩に腰をかけたリアーノが、口を開く。
「フィンに、ハルトっていう、遺跡初心者が二人もいるわけじゃん。もしオレっちがガイド役なら危険の少ない通り道選ぶけど」
ててて、と人差し指と、中指で岩場を歩くような仕草をしながら、リアーノはいう。
「横から入ったほうがゴールが早かったりする時もあるし。でも正面から入るのって距離も長くなる分、罠だらけで、めちゃくちゃ大変だったりするけど、そういうところにいいお宝あるんだよなぁ」
しし、と笑いながら言うリアーノに、「へええ」とジャンが感心しながら声をもらす。
「そうなのか。オレは遺跡っていったら正面きって入ってく以外わからないからなぁ!特に今までもそれで生還出来たしな!」
ハハハッ!と豪快に笑うジャンの言葉に、リアーノが「凄えな、あんた」と驚きながら呟く。
「遺跡って、大変なんだね」
「まぁな。けど稼ぎになるのも確かだしな」
そう言って、またシシッ、とリアーノが笑った時、「ちょっといいですか」と二ヴェルの少し固い声が私たちにかけられた。
「にしても、もうちょっとありそうなのにな」
「……ええ」
「あるにしても、険しい山登りコースしか残ってないらしいぜ」
「まあ…そうですね」
「え、じゃあ二ヴェル、街の人たちはどうしてるの?」
「金で護衛を頼むか、日数をかけて登山するか、大きく大陸周っていくかのどれか、でしょうね」
ハルトが持たされた光る地図の出す図面と、二ヴェルの推測からすると、どうやら私たちは何が何でも、次の街を出たあと、遺跡の中を通って、また次の街へと向かわなくてはいけないらしい。
というのも、あのあと、一旦、まずは聞き込みがてら装備やら食料やらを整えようという二ヴェルの提案により最寄りのこの街へと立ち寄った。
宿をとり、各々が買い出しを終え、部屋の中で再度、二ヴェルが地図を開くものの、ついさっきまで出ていた山を登るという選択肢は消え『遺跡』という文字が光を帯びている。
「どうやら、我々には選択権などあってないようなものですね」
チッ、と軽く舌打ちをした二ヴェルに、「そんなん始めからだろ」とハルトが答える。
「選ぶ余地なんてあったらそもそも俺はここにいない」
「いや、ハルトは選んだでしょうよ!その結果、私まで旅に出る羽目になったんじゃない」
「俺はただフィンがいないならやらない、って言っただけだ」
「それが選んでるっていうの!」
しれ、っと悪びれることなく言うハルトに、少し腹が立ってべしっ、と背中を叩けば、ハルトは楽しそうに笑う。
「でも最終的には、フィンだって選んだんだろ? 俺と旅するって」
「……ぐ…」
ずるい。
そんな笑顔を浮かべながらいうのは、ズルい。
珍しく人前で見せてきた笑顔に、思わず言葉がつまれば、「オレも!」とジャンの元気な声が室内に響く。
「オレも、ハルトとフィンと旅するって決めた。決めたのはオレだ! な、二ヴェル!」
にか、と笑いながら、眉間に皺をよせていた二ヴェルにジャンが声をかければ、はた、と目があった二ヴェルが、「まあ、そうですね」と少し目尻をさげながら口を開く。
「……ワタシも、選んだといえば、選んでいますし」
ジ、と見てくる二ヴェルの視線に、じわ、と耳が熱くなった気が、する。
「あ、それで言ったらオレっちだって選んだぜ!」
そう言って、しししっ、と笑ったリアーノの笑顔につられて、思わずふふ、と小さく笑えば、視線が交じったのは、リアーノではなく、彼の隣にいたジャンで、その瞬間、ジャンはとても優しい表情を浮かべた。
なんか、変な感じだ。
胸の奥のほうが、ムズムズするというか、なんというか。
それに、とても失礼だけど、普段、おバカなことしか言ってないジャンからは想像もつかないあの表情に、正直かなり戸惑っていれば、「話を戻します」と聞こえた二ヴェルの声に、私は人知れず静かに息を吐いた。
「とりあえず、ともかく我々は遺跡を通って、次の街へ向かいます。通らない選択肢はない。街の人間に聞いたの話だと、この遺跡、というより山を超えたあたりから、魔物の出現量も格段に増えているようですし。気を抜いたら死にますよ」
「……し」
「死にます」
二ヴェルの言葉に、思わずビクリ、と肩を揺らす。
「ですが」
きゅ、と痛くなく、でも、しっかりと二ヴェルに手が握られる。
「フィンは死なせません。ワタシが守るので」
「二ヴェ」
「と、まぁ、冗談はそこまでにして」
「冗談だったの?!」
「半分冗談、半分本気です。それ位、気をつけてくださいね、ということですよ。フィン」
握られた手が持ち上げられた、と思ったそのあと、チュ、というリップと柔らかい感触が指先を走る。
「なっ?!!」
「おい、二ヴェルてめえ」
バッ、と思わず声をあげて手を離した私に、「おや残念」と二ヴェルは心底残念そうに言い、ハルトはまるで殴りかかりそうな勢いで立ち上がっていて、私は慌ててハルトの腕を掴んでハルトを座らせる。
「まあ、とにかくアレです。フィンの身の安全が第一だからな。自分の身は自分で守れよ野郎ども」
ペシン、と『遺跡』と書かれ、光る文字を叩きながら言う二ヴェルに、「当たり前だ!」とジャンとリアーノ、それにハルトもまた「言われなくても」と呟きながら、頷く。
「じゃ、そうと決まればさっさと寝るか! 明日は朝から大忙しだしな!」
「さんせー!」
そう言って、ジャンとリアーノは各自で割り振ったベッドへ颯爽と潜っていく。
その様子を見て、ハルトと私、二ヴェルは、顔を見合わせて笑った。
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