第15話 メンバーは5人


「しかし…アレですね」

「何?」


 ふむ、と言いながら私達を見やる二ヴェルの言いたいことが掴めずに、首を傾げる。


「パーティメンバーが此処まで増えると、この先は、もう少し資金面を考慮しなくてはいけませんね」


 ツン、と二ヴェルが突くのは、さっき一瞬リアーノの手に渡ったお財布で、突かれたことでチャラ、と中の小銭が動く音が聞こえる。


「ワタシに、フィン、ハルトにジャン、そしてリアーノ。今のところ、魔王の予言通りに、5人の人間が集まった。そして、この先も予言通りだとすると、これ以上、ワタシ達側のメンバーは増えない。とはいえ、5人ともなると、食費も、宿代、移動費も今より確実に増えてくるでしょうし。これまでのことを考えると、魔王も中々に力を持っているはずですからね。魔王と直接対峙する前に、攻撃力の底上げもしておかなければ」

「これまで…それって」

「ワタシがフィン、ハルト、ジャン、あなた達に出会った村には、魔法がかけられていたでしょう?」

「ハルトが来たら発動するって言ってたアレね」

「そうです。そして、そのあと、この街で、メンバーが増える、とも予言している」

「確かに…」


 二ヴェルの言葉に、これまでの事を振り返ってみるけれど、予言の通り、と言われれば、そうかも知れない、と小さく頷く。


「別に、ここでリアーノを仲間にしなければ、予言通りってわけじゃないんじゃないか?」

「おい?!」


 きょとん、とした表情で、一切の悪気を含まない様子のジャンの言葉に、リアーノは声をあげるものの、ジャンは「何だ?」と首を傾げる。


「だってそうだろう?別に、リアーノでなければいけないわけでも、それを証明するものがあるわけでも」

「それが、あるんだよ、ジャン」

「そうなのか?ハルト」

「ああ」

「これです」


 ジャンの言葉に、ハルトは頷きながら答え、ハルトでは無く、二ヴェルがさっき、質問に出た地図を指しながら口を開く。


「先ほど、街に入って少ししてから、地図を観察していましたが、この地図はとても良く出来ている。地図自体に描かれているのは、ワールドマップと、何やら不思議なイラスト数点。ハルトに聞いたところ、初めの内はこの地図をきちんと見る機会が少なかったとのことなので、あくまでもワタシが、仲間になった時点から、の話にはなりますが」

「おう。で、この地図がなんかあったのか?喋ったとか?」

「喋ってたら気付くだろ」

「そうか?オレなら気付かないな!」

「ジャンならそうかもな」


 呆れたように言う二ヴェルの言葉に、ジャンはハハハ!と楽しそうに笑う。


「まぁ、ジャンがこうなのは今更ですから放っておきます。フィン、此処を見て」

「ここ?」


 二ヴェルの指差すところを見れば、地図の一部が光っている。


「光ってる…何これ!」

「オレっちもこんな地図、初めて見たぞ!」

「二人とも、光っていること以外にも、気がつくことはないですか?」

「ええと……」

「他……?」


 二ヴェルにそう問いかけられ、私とリアーノは揃って首を傾げる。


「その光ってる場所、この店か?」


 そう言って私とリアーノよりも先に答えたのは、あとから地図を覗き込んできていたジャンで、ハルトはそんなジャンに対して「よく気づいたな」と驚いた表情を浮かべる。


「いや、なんとなく、だったんだが」


 そうか合ってたのか!と喜ぶジャンに、「期待したオレがバカだった」と二ヴェルがため息混じりの声をこぼす。


「二ヴェル、どうして、この光ってる場所がここのお店の場所ってわかるの?」

「それは、口で説明するよりも、実践してもらいましょう。ハルト」

「……なんで俺」

「お前が行くのが一番分かりやすい。お前だって気づいてんだろうが」

「気づいてたとしてもわざわざフィンから離れるなんてイヤに決まってんだろうが」


 そう言って、ぎゅうう、とハルトが私の腕に抱きついてくる。


「ハルト」

「なに、フィン」


 腕に纏わりつくハルトを見ながら名前を呼べば、ハルトが嬉しそうな顔を私に向ける。


「ハルトが行くと分かりやすいの?」

「……まあ、そうだね」

「じゃあ、行ってきて。私、まだよく、分かってないから」

「フィンも一緒に行くなら行く」

「そしたら、私、地図見れないじゃない」

「………じゃあ行かない」


 ぶう、と口を尖らせて拒否をするハルトに、はぁ、と小さくため息をつく。

 なんでこのタイミングで、イヤイヤモードに入っているんだ。

 まあ、リアーノっていう新しいパーティメンバーも増えたから、人見知りが発動している、のかもしれないけれど。

 でも。


「どうしても、地図の光ってること、知りたいから行ってきて欲しいな」


 知りたいものは、知りたい。

 ハルトを見て、「おねがい」と最後に一言を付け加える。

 私の好奇心の強さは、誰よりもハルトが一番理解をしている。

 そして、私の「おねがい」をハルトが聞いてくれることも、分かっている。

 けれど。


「分かった」


 そう言って、頭を優しく撫でて笑う時のハルトが好きで、「おねがい」をしてしまうのは、私だけの秘密だ。



「なぁフィン」

「なあに?」


 ハルトが出て行って、すぐにリアーノが私を見て声をかけてくる。


「アイツと付き合ってんの?」


 こてん、と首を傾げながら可愛らしい顔をしたリアーノが、そう問いかけてくる。


「っな、ちがっ」

「違います」

「違うな」


 突然の問いかけに、違う!という言葉がうまく出なかった私と同時に、二ヴェルとジャンが声を揃えてリアーノに答える。


「違うの? それにしちゃ、だいぶラブラブだったけど」

「ラブラブなんてしてないし!そもそも、私は!」


 また訳の分からない誤解が!とリアーノの言葉を否定した瞬間、「あ!」とジャンが何かに気づき、声をあげる。


「動いた!」

「え、あ、本当だ。動いてる!」


 ジャンの見ている方向を見やれば、テーブルに置いた地図の光っている場所が、少しずつ、ではあるものの移動している。


「おお、本当だ。え、これなんで動いてんの?」

「それは、アイツが帰ってきたら説明する」

「え、今で良くね?」

「ハルトが帰ってきたら、ジャンかお前にも出てもらうから説明はそのあとだ」

「え、どゆこと?!」


 リアーノの問いかけに、二ヴェルが答え、またリアーノが問いかける。

 そんなやり取りを横目に見つつ、さっきの話題が終了したことに、こっそりと小さく息を吐く。


 どうして、ハルトと話しているだけで、あんな風に言われるんだろう。

 小さい頃は、ずっと二人で遊んでいてもそんなこと言われなくて。

 ハルトの背も伸びて、声が変わり始めた位から、お父さんのお店にきていた人たちに時々、言われるようになってきて。

 その頃から、毎回否定しているんだけど、その度に、ハルトが一瞬だけ、悲しそうな表情をする。

 そんなハルトの顔を見たくないのに。

 ただ、幼馴染みで、一緒にいることが普通なだけなのに。


 そんな事を考えながら、ヒョコヒョコと動く地図の光を、しばらくの間、静かにぼんやりと眺めていた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る